笑い、滴り、装い、眠る。
第7章 雨の日は家にいて
降ってきちゃった…。
傘を持たなかった僕は、雨宿りがてらしばらく工房で時間を潰すことにした。
が、雨は一向に止む気配はなく、寧ろ激しくなってきた。
別にいいか?少しぐらい濡れても?
ちびちび飲んでいたコーヒーを飲み干し、空のカップを手に立ち上がった時だった。
雨音に混ざり、微かに聞こえたドアをノックする音と声。
「……さん、大野さん?」
その声は…もしかして……?
小走りで玄関へと走りより、ドアをそっと開ける。
翔「突然押し掛けてごめん。今…いい?」
俯いたままの翔くんの前髪から滴り落ちた雫が、
泣いているように見えたのは気のせい?
「まずは体拭いて?」
少し大きめのタオルを手渡そうとすると、
そのタオルごと、翔くんの腕の中に閉じ込められた。
「あ…あの…」
翔「ごめ…っ。しばらくこのままで…」
一体いつから雨に濡れていたんだろう。
雨に濡れていない僕でさえ凍えそうなほどに冷えきった翔くんの体。
そして、幾度となく僕の耳元で甘く低く囁いた声で翔くんは、
言葉で自身を嘲笑う。
翔「俺がバカだったんだ。俺が貴方を好きになんかなったから…だから…」
「翔くん…」
翔くん、君は本当にズルい。
さっきまで、凍えそうだった身体の中が火照るほど熱くなってしまった僕は、
その熱の赴くまま、氷のように冷たい翔くんの唇にキスをした。
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