笑い、滴り、装い、眠る。
第8章 花梨―唯一の恋―
姉「智、いつもありがとう。」
姉貴は見舞い用に持ってきた花を見て嬉しそうに笑った。
「当たり前だろ?姉弟なんだから?」
パイプ椅子を引き寄せベッドの側に腰かけた。
「それと、はい、これ?」
今月分、と、姉貴の枯れ枝みたいに細くて白い手の上に封筒を載せた。
「入院費の足しにしてよ?」
姉貴の横顔が曇る。
姉「もういい、って言ってるのに…。」
「だって…俺、今の家に引き取られて大学にまでいかせてもらえてんのに姉貴は…」
姉貴は俺の手の中に封筒を戻し、細い両手の平で包み込む。
姉「いいのよ?そんなこと気にしなくて。私は智があんないい人たちに引き取られてよかった、って思ってる。」
そう。俺と姉貴は幼い頃に両親を亡くし、親戚をたらい回しにされた挙げ句、施設に入れられた。
幸い俺は会社経営しているという子供のいない夫婦に引き取られることになったけど、昔から体が弱かった姉貴を、って人は中々現れなかった。
当時、てっきり姉貴も一緒なんだ、って思ってた俺は、自分一人だけ、と聞かされて養父母の元へ行くことを拒んだ。
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