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笑い、滴り、装い、眠る。

第8章 花梨―唯一の恋―



ガリガリに痩せた体には不釣り合いなぐらいにふっくらしたお腹を撫でていた姉貴がポツリ呟くように言う。



姉「そうだ。ねぇ、智。」


「何?」


姉「あの子、覚えてる?」


「あの子?」


姉「ほら、智と同じぐらいの年の子で、背が小さくて女の子みたいに可愛い男の子、いたじゃない?」


「いたっけ?そんなヤツ。」


姉「いたわよ?ホラ、智がもうすぐ施設を出る、って時期に入所してきた子。」



……思い出せねぇな。



姉「あの子も引き取ってくれる方が見つかって……ホントによかった。智が施設を出てってからすごく寂しそうにしてたから。」


「ふーん…。」


姉「元気にしてるかしら?」



遠い目で窓外を見つめる姉貴の肩に、ダンナさんがカーディガンをかけた。



「少し横になった方がいい。」


姉「……そうね?」


「じゃ、俺そろそろ行くから?」


姉「うん。ありがと。」



病室を出てからも、その、俺と殆ど入れ代わりのように入ってきたヤツのことを考えていた。



俺とあまり年が変わらなくて、



女の子みたいに可愛い男の子…



『お姉さん、具合どうですか?』



……まさか、な。





が、そのまさか、だった。



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