笑い、滴り、装い、眠る。
第8章 花梨―唯一の恋―
髪を乾かして整えて、
服もキチンと着た俺を、等身大の鏡に映してみる。
落ち着け。落ち着け、俺。
自分に言い聞かせながらバスルームから静かに出た。
しん、と静まり返った廊下。
少し歩いた先には准一の部屋。
そしてそこからもう少し、歩いた先には翔の部屋がある。
「……。」
手前のドアを通りすぎて、その次のドアの前に立ち止まる。
コツコツと、よほど聞き耳を立てないと聞こえないほどの音量でドアを叩く。
翔「はい?」
パタパタと駆け寄るような足音がして、ガチャリとドアが開いた。
翔「あ………。」
「う、うす。」
翔「適当に座ってて?今、お茶持ってくる。」
慌てて出ていく翔の背中を見ながら素直に従う。
翔「はい。お腹空いたでしょ?」
ご丁寧にワゴンに一式携え現れ笑う。
翔「大野さんが好きそうなケーキ、いくつか見繕ってきた。」
お茶のお代わりもあるし?と、ティーポットまで。
確かに腹ペコだけどさ?
翔「でももう……」
翔が持つティーポットがカタカタと鳴る。
翔「俺以外の人とそんなことしないで……。」
ティーポットを持ったままぐずぐずと鼻を鳴らす翔の頭を抱き寄せた。
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