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笑い、滴り、装い、眠る。

第8章 花梨―唯一の恋―



あれから数ヵ月後。



俺と翔は、俺らが幼少期を過ごした施設に来ていた。



無事出産を終え、身二つになった姉貴も一緒に。



「時の経つのは早いものね?こうしてミナ子ちゃんの赤ちゃんが見れるなんて?」



園長先生は姉貴の子どもをあやしながら顔を綻ばせた。



「智くんも。今日は顔を見せに来てくれてありがとね?」


「そんなん当たり前だって?ここがなくなったらもう先生に会えなくなるかもしんないじゃん?」



そう。俺たちはここがもうすぐなくなると聞いて、



園長先生に会いに行くついでに姉貴の子どもの顔を見せに来ていた。



「そんなことないわよ?私は別の施設に移るだけだからそっちの方に会いに来てくれたらいいじゃない?」


「んじゃあ、気が向いたらまたコイツと…って、あれ?翔は?」


「ああ、翔くんなら…」



さっきまで隣でニコニコしていたはずの翔は、



窓の外でこちらに背を向けスケッチブックに何やら描いていた。



「ねぇ先生。それはそうと、今年も綺麗に咲きましたね?」



園長先生から赤ん坊を受け取りながら、姉貴と先生は二人窓の外を眺めやった。



「そうねぇ……。」



窓の外には花梨の木が、薄紅色の花を付けていて、



どうやら翔はそいつを描いているらしかった。



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