笑い、滴り、装い、眠る。
第8章 花梨―唯一の恋―
そう言って、きゅっと握られた手。
翔「俺にとって大野さんは世界でただ一人、一生のうちでただ一人、俺が好きになった人。」
そう言いながら、何度も何度も握り返される。
翔「だからずっと、俺のそばにいて……。」
翔の顔を見ることができない。
車の窓ガラスに映った顔さえも何故だか見ることができなくて俺は、
ずっと俯いたままでいた。
だって、コイツが好きになった俺は、今のこの俺じゃない、って、
昔、正義の味方が悪い奴をやっつける四コママンガを描いてやった俺じゃない、って分かっているから。
「ごめん、俺…は……」
翔「返事なんかしなくていいから。」
力強く握られた手からは、翔の強い想いが流れ込んできて、コイツの隣にいることさえ怖くなる。
翔「俺が勝手にそう思ってるだけだし、大野さんがイヤだ、って言うなら俺…」
「そうじゃなくて…今の俺じゃあ、お前と釣り合わねぇだろ?」
翔「そんなことない…」
「あるんだよ!知ってるんだろ?お前の兄貴と俺がどういう関係か?俺が何やってたかも?」
翔「……知ってたよ?でも、それが何?」
「え?」
思わず顔をあげ、翔の顔をまじまじと見てしまう。
翔「やりたくてやってたわけじゃないんでしょ?」
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