笑い、滴り、装い、眠る。
第7章 雨の日は家にいて
「そうだ。今、お茶淹れてくるね?」
椅子から立ち上がろうとしてそれを見た櫻井くんが慌てて駆け寄る。
翔「そんなこといいですから座ってて下さい。あ、何なら横になって。俺、もう帰るんで。」
「大丈夫。しばらく座ってたから大分楽になったし?」
翔「でも、今、動き回ったりして俺がお願いしたヤツが間に合わなかったら…」
しまった、と、櫻井くんは顔を顰めた。
翔「すいません。俺、そんなつもりじゃ…」
「いいんです。元々、早目早目に作業してるしから、無理してる訳じゃないし。」
翔「でも…あの…ほんと、気にしないで下さい。」
「気にしないで。ちゃんと彼女さんの誕生日には間に合うと思うので…」
翔「あ……と…その…『彼女』…じゃなくて…」
言いづらそうにモゴモゴしている櫻井くんを不思議そうに見ている僕と、
一度言いかけてしまったけど、どうしようか、と僕の顔色を伺うように上目で見る櫻井くんと目が合う。
翔「男…なんですよ。」
「え…?」
翔「だからその…『彼女』じゃなくて。」
しばし、無言で見つめ合う。
翔「…やっぱ、引くよな?」
あの櫻井くんが、という驚きと同時に湧き出てきた親近感と、何処かで何かを期待してしまう邪な感情が芽生え始めていたことに僕はまだ、
気づいちゃいなかった。
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