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笑い、滴り、装い、眠る。

第7章 雨の日は家にいて



作業台に石を置き、片方の手で固定しながら彫刻刀の刃先を押し合て、ゆっくり真っ直ぐに動かす。



硬い石の上に出来てゆく細い一本線。



いつもだったら難なくやれるのに、この時ばかりは緊張していた。



だって…



僕のすぐ横で、好奇心たっぷりの二つのドングリみたいな目に見つめられていたし。



意識すると余計に集中できなくて、少し手元が狂ってしまって、



僕の指先に彫刻刀の刃先が触れた。



「あっ!!…っつ…」



気づいた時には、僕の指先の裂け目には血が滲んでいて、



その指先は櫻井くんの口の中に含まれた。



初めて近くで見る櫻井くんの横顔。



可愛らしいだけの顔立ちかと思っていたけど案外凛々しくて少しドキドキした。



「あ…あの…櫻井くん?」


翔「ん…あっ!!すいません、そうですよね?これぐらいの傷、絆創膏貼っとけば?」



ついクセで、と、真っ赤になりながら頭を掻いた。



翔「子供のとき、お袋がよくこうしてくれてたから。」


「そう…」


翔「これ、ってもしかして、俺が注文したヤツ?」

「うん。」



櫻井くんは、僕が細工した天然石を手にとって、物珍しそうにいつまでも眺めていた。



翔「喜んでくれるといいなあ。」



そんな櫻井くんの視線の先にいるであろう誰かの存在に、胸がきゅっとなる。



「ごめん。少し疲れてるみたい。休みたいから帰ってもらってもいいかな?」


翔「あ…すいません。いきなりやって来て長居しちゃって。」



お邪魔しました、と、



櫻井くんは笑顔で帰っていった。



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