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無表情の宇野くん

第35章 田辺くん。

田辺くんは、太っていて、優しくて、ギャグも言う面白キャラで、カレーばかり食べているような子なのに、陰が薄い。


みんながその存在に気づかないようなキャラクターなのだ。


実際、宇野くん五味さんと同じ班にいる田辺くんだが、二人には気づかれていないだろう。隣にいる子も、当然のごとく気づいていない。


陰が薄いというか、透明人間のようである。


田辺くんは、太っているからか、運動神経が悪い。しかし田辺くんは、ドッジボールで一人動かずにいても、誰も当てに来ない。どころか、気づいてすらいない。


サッカー部が練習していて、飛んできたボールが田辺くんに当たっても、サッカー部の人はボールがひとりでに止まったと思う。


そこまで徹底しているのならば、犯罪も犯せるのではないかと思うが、しかし田辺くんは善人なので、そんなことはしない。


一度、コンビニエンスストアでうっかり会計を済ませずに店を出て、五百メートルほど歩いても、誰も追いかけて来なかった時には、泣きそうになったものだ。


店に買い物カゴを持って入り、会計した時の、店員のポカンとした顔を、田辺くんは生涯忘れることはないだろう。

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