テキストサイズ

無表情の宇野くん

第91章 宇野くんと五味さんと満月の夜。

私はこの時から、少し妙な予感というか、変な空気を感じ取っていたんです。


それは、的中することとなる。


宇野くんは五味さんの前で、無表情ながら、恥ずかしそうな仕草で、自分の喉を抑えながら。


「好きです!!!!」


そう叫んだのだった。


「!!」


私と、おそらくは五味さんも聞いたことはないであろう、宇野くんの生声だった。


無表情ではありながら、感情は抑えきれずに、宇野くんは頭を下げて、


「付き合ってください!!」


と、続けた。


五味さんは、驚いていた。


それは告白に対してなのか、宇野くんが言葉を発したことに対してなのか、恥ずかし気味に告白してきた宇野くんを見ていた。


「......えっと、えーっと、私、そういうの経験ないんだけれど...えっと宇野くん、好きですって、言ったの?」


「そう、好きだって言った」


宇野くんは頭を上げずに答えた。


「あー...はは...そっか、宇野くん私のこと好きなんだ」


五味さんはいたずらっぽく笑ってみせる。それは恥ずかしさを誤魔化すために笑ったのかもしれない。


「へー、そうなんだ。知っちゃった知っちゃったー、私宇野くんのこと一つ知っちゃったー」


「......」


「私はね、今まで恥ずかしいからあまり公言してこなかったけど、やっぱり現実の男の子のこと、好きなんだよ、そこはやっぱり、二次元じゃあ手も繋げないわけじゃない?」


「......」


「宇野くんのことも、友達としてもそれはそうだけど、異性としても、やっぱり意識はしていた」


そういう五味さんだが、彼女は意識しているわりにはそういうことに関して無頓着で、無防備すぎるところがあるけれど。


「私も...やっぱり、話したことは、なかったけど、面白くて、一緒にいて楽しくて、笑顔は見れたことないけど、でも、宇野くんのことが好き」


「!! じゃあ──」


「でも、付き合うことはできない」


五味さんはまたいたずらっぽく笑って。


「もしも、宇野くんが笑顔を見せてくれたら、その時は...私の方から告白してあげる」


胸を張って偉そうに、やはりいつもの笑顔で、上から目線に五味さんは言うのだった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ