テキストサイズ

無表情の宇野くん

第92章 宇野くんと五味さんと満月の夜②。

宇野くんは、無表情で、あまり人と喋りもしない。そんな宇野くんに、笑顔を見せろというのは、結構な要求だと、私は思います。


しかし五味さんは、宇野くんのことが好きだからこそ、宇野くんの笑顔が見たいから、そんなことを言ったんだと思う。


彼女のことは小学校の頃から知っているが、彼女はその時から平等なのを好む。宇野くんは五味さんのことを知っているのに、宇野くんのことを知らない自分が嫌なんだろう。


なんだか申し訳ないのだ。


彼女はいつも自由奔放で天真爛漫だけれど、誰よりも人のことを思っていて、その上難しい。


宇野くんのことは好きだけど、宇野くんのことを知らない自分が好きではない。


というよりかは、やはり宇野くんに対して申し訳ないという気持ちなのだろう。


自分が優位とか、相手が優位とか、そういうのがあんまり好きじゃないのだ、彼女は。


「無理に笑え、とか、泣け、とか、そんなことを言うつもりはないけれど、でも、一度でもいいから、宇野くんの気持ちを教えてほしい、宇野くんの笑顔を、教えてほしい」


五味さんは自分のことは気にしない。


例えば笑えと言って、宇野くんに嫌われても、構わないことはないのだろうが、しかし自分が苦しいだけならばそれでいいと思ってる。


宇野くんにだってなにか理由があって笑わないのかもしれない。


彼女は宇野くんをそんな理由から解放してあげたい。


そんなことを思っているはずだ。


「...そろそろ戻らないと、先生に見つかっちゃう。冷えてきたし、戻ろう宇野くん」


「......」


五味さんは宇野くんの腕を引っ張って、部屋へと戻ろうとするが、宇野くんは動かない。


「...宇野くん?」


「五味さん、その...卒業式。卒業式まで、待っていてほしい」


「......」


「卒業式の日に、もう一度告白する。その時笑っていなかったら、断るどころか縁を切ってくれて構わない。だから、卒業式まで、待ってほしい」


初めて聞く宇野くんの声は低くて、男の子っぽくかっこいい声。


五味さんは宇野くんにいたずらっぽい笑顔を向けた。


「いいの? 本当に縁を切っちゃうよ?」


「いいよ...その時は幼稚園でも作るよ」


「ふふ、その時までに私の気持ちが冷めてなかったら、考えてあげる」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ