不思議の国のアリス
第2章 ♠︎
「んーーー!今週も週末がーーー来たぁーーー!」
.......そんな秋の寒さも通行人の視線も気にせず、会社の入り口前で由紀は大声で叫ぶと、両手を大きく万歳させて伸びの体勢を取った。そして、何故か両足も大きく広げる。
偶に彼女はこの謎のストレッチを堂々と恥じらいも無くやっている。
何でも、身体の凝り固まった筋肉が引き伸ばされて気持ちいらしい。
確かに身体に善いかもしれないが、家でやればいいのではと思わずにはいられない。
そして、その奇行が終わると、彼女は近くのバス停に向かって走り出す。
交通機関はバスのみだが本数が少ないので、常に小走り気味である。
横断歩道に差し掛かり、青信号を待つ最中
彼女は土日の過ごし方をアレコレと考えていた。
今週、どうしようかなぁ...。
晴天らしいけど、特に行きたい場所も無いのよねぇ....。ゲオでDVD借りて、寝っ転がりながらポテチでもほうばって見ようかな.....。
.......と言った特に面白みも無い彼女にとってはいつも通りの土日の過ごし方を考えていた矢先の事だった。
彼女の目に激痛が走った。
「うぉ!!!」
彼女は目の痛みに耐え切れず、手で目を抑えてその場にしゃがみこむ。
何これ、今までこんな事なかったのに。
疲労によるストレスかしら?もしかしたら何かの病気のサイン?
嫌だわ、気をつけないと。
痛みが先程よりも和らいだのか、彼女はゆっくりと立ち上がる。
そして瞼を抑えていた指を離し目を開く。
少し禿げた白線、赤色を示す歩道用信号機、信号が変わるのを待つ歩行者、シルクハットを被った子豚。
うん、何も変わったところはなさそうだ。
........。
子豚?え、何故子豚?
由紀は、何度も目を擦ったり頬をつねったりするが、確かに今、シルクハットを被った子豚が存在しているという事実を打ち消す事は出来なかった。
ストレスによる幻覚症状、これはマズイ。
土曜は眼科に行った方がいいかもしれない。ちょっと待って、これ眼科で解決出来る問題?
子豚が見える原因を考えていたら、いつの間にか信号は青に切り替わっていた。