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愛してるって言って!

第4章 【その愛に中毒を起こす】

「忍さん、良かったら裏で休んで…」
「いいから」
気を利かせた千春が、こそっと忍に言ったが、忍は首を横に振った。聞こえないところで、静矢が何を話しているのかわからないくらいなら、例え辛い事だとしてもちゃんと聞きたかった。
「内藤達が心配してくれる気持ちは嬉しいけど…」
「そうするべきだよ。茜さんの為にも」
「蒔田くんさえもし良かったら、私の友達紹介するけど…」
「静矢、それもそうだし、今はなんだってあるだろ?婚活してみろよ。気晴らしにもなるし、絶対その方が人生楽しいって」
人生楽しい…。まぁ、そうでしょうとも。
忍がずっとイライラしているのを、千春には確実に気付かれている。千春は頻りに忍を見ては心配そうに様子を窺っていた。
千春は、そういうの敏感だもんな…。
「僕も、その方が安心します」
忍は、カウンターからわざと明るい声で言う。内藤と凪子は一瞬、ギョッとして忍を見たが、忍が笑顔を作ると、安堵した顔を見せた。
「ほら、弟さんがあぁ言ってるんだぞ。静矢」
「ありがとう。でもまだ、そういう気分にはなれないんだよ」
片付けをしていた忍の手がピタッと止まる。
「まだ引きずってんのか」
「仕方ないよね…。だって、奥さんだったんだし。そんなに簡単に忘れられないよね」
凪子の言葉が、忍の心に大きな傷を付けていく。
もう大丈夫って言ってみたり、まだそんな気分じゃないって言ったり…。おれの事は、好き放題抱くくせに。
忍は、自分でも何に苛立っているのかわからなかった。だからこそ、質が悪かった。妙に感情が昂った忍は、今完全に自分を制御できない状態だった。
「義兄さんは、一途過ぎるんですよ」
「忍さん…」
「忍…」
ほぼ同時に、静矢と千春が声を出した。それはまるで、これから忍が言おうとしている事を、止めようとしているかのようだった。だが、忍はそれに構わず、笑顔で言う。
「僕も、義兄さんには幸せになってもらいたいんです。良かったら、良い人紹介してあげてくださいね」

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