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愛してるって言って!

第4章 【その愛に中毒を起こす】

『失う恐怖』

あの言葉…。忍は、本気だったのか…?
友人達を見送って、一人美術館内へ戻る途中、静矢は考えていた。
再婚、か。
内藤も、凪子も、心配してくれているのだろう。静矢には、誰かいい人を見つけて、幸せになってほしいとそう言ってくれた気持ちは本当に嬉しかった。でも、今日あの場所で、忍の前で、それを言ってほしくはなかった。正直、最悪のタイミングだった。
忍とは、あれ以来時々体を重ねている。そういう風になる時は、決まって静矢からで、忍に誘われるような事は一度もなかった。ただ、ベッドでは必ず、忍は静矢に好きだと言ってくれる。
本当は、静矢にもわかっていた。忍には、ちゃんと言わなければいけない、好きだと言ってくれているのだから、何か、言葉を返さなければ、と。
だが、静矢は、忍に気持ちを伝える事で、忍を余計深く傷つけてしまうのではないかという不安を感じていた。それに、忍を傷つければ、かつて茜を失ったように、いつの日か忍を失うかもしれない、という事への恐怖もあった。やる事だけやっておいて、なんて自分は臆病なのかとも思うが、どうしてもそこへ踏み込んでいけずに、未だに躊躇してしまうのだ。
忍に好きだと言ったところで、茜の代わりだと思わせる事くらい、目に見えてる。
その可能性は極めて高い。そう思うと、肝心な事が、静矢には言えなかった。しかも、忍を抱けば抱くほど、静矢の中の恐怖や不安感は大きくなっていった。

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