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愛してるって言って!

第5章 【夜の闇は白い朝を連れてくる】

おそるおそる便せんを開くと、そこには確かに茜の字で、メッセージが書いてあった。久しぶりに見る筆跡を見て、途端に懐かしさがこみ上げてくる。

『まず、この手紙を見つけてくれた方に感謝します。ありがとうございます。
私は、神様に毒虫にされてしまいました。このまま生きれば、私の行く末は決まっています。それは、彼と同じ末路となり、きっと最愛の人を一生苦しめ続けてしまいます。そうなってしまう前に、私は、自ら命を絶つ事で、愛する人達のこれからの人生を、守ります。
どうか、信じてください。生があれば、そこには必ず死があります。そして、死を迎える者には、生を遺していく事ができると私は信じています。
きっとこれが読まれる頃、あの人は愛に臆病になっているでしょう。
苦しみ、悩んで愛する事を諦めてしまっているかも。だから、ここに遺します。
あなたは生きて、どうか、この先も愛する事を恐れないで。
あなたには、それができるのだから。だから、大丈夫。』

読み終えた時、静矢は頭が真っ白になっていた。
これは…まるで、今の俺に茜が書いたような内容だ…。
「確かに茜の書いたものだろうが、私達にはなんだか意味がわからない所が多いんだ。君なら、何かわかるんじゃないかと思ったんだが…」
「これ、多分茜が好きだった本の事だと思います。…どこで見つけられたんですか?」
「本の間に挟まっていたんだ。母さんが、この前断捨離だって言って、本棚を整理していた時にね。ほら、この本だよ」
靖男が取り出したのは、フランツ・カフカ著書の、『変身』という本だった。

静矢は一気に思い出した。それは、ごく普通の、本当に穏やかな夜、茜の亡くなる前日の事だった。

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