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愛してるって言って!

第5章 【夜の闇は白い朝を連れてくる】

『告白の行方』

「ただいま」
その声が、確実に覇気のないものに感じられて、忍は不安になる。
「おかえり」
忍は、ハッとして、帰って来た静矢を見つめた。大きな不安の波が一気に津波の様に襲ってくる。
出かけていた時間は、ほんの数時間だと言うのに、どうしてなのか、静矢の顔は、何年も旅を続けて来た旅人の様に、疲れて見えた。
「お疲れ様」
「あぁ…」
「それで…遺書、だったの?」
おそる、おそる忍は聞く。
「あぁ」
そう一言だけ、静矢は答えた。
「茜、なんて?」
「ごめん忍、ちょっと一人にさせてくれるか」
静矢は、顔を歪ませている。遺書を読んで、色々思い出して疲れたのだろうか。そう思うと、余計にそこに何が書いてあったのか忍は気になった。
「…うん、大丈夫?」
「あぁ、悪い。少し疲れた」
静矢はそう言うと、フラフラした足取りで階段を上がっていった。その背中を、忍はじっと見つめる。
今日は、話せそうにないかな…。
忍は今日、覚悟を決めていた。思い切って静矢の気持ちをちゃんと聞いて、自分の気持ちも洗いざらい話してしまおうと思っていた。
このままじゃ、おれが静矢さんを傷つける事になる。支えたいと思ってここにいるのに、やっぱりそれじゃだめだ。
きっと、自分がちゃんと気持ちを話せば静矢だって話してくれる。そう思った。だが、それから一時間程経っても、静矢は一階に降りてこなかった。
寝ちゃったのかな…。
忍は寝室のドアを開け、思わず足を止める。そこにいる静矢を見た時、忍の胸はまるでぐしゃりと潰されたように痛んだ。
静矢さん…泣いてる…?
静矢は、日が落ちて薄暗くなった寝室にいた。ベッドに腰掛け、一枚の紙を持ったまま、肩を震わせて泣いている。
「静矢さん…」
忍が声をかけると、静矢は振り返る。目は赤く、頬は涙で濡れていた。

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