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愛してるって言って!

第5章 【夜の闇は白い朝を連れてくる】

「嶋さん!ありがとう!うぅー…寒かったぁ…」
「このクソ寒いのにそんな薄着で出歩いて来るなんて、お前も蒔田も大バカ野郎だ」
「ありがと。本当、助かったよ」
忍は、呆れている嶋を見て笑う。嶋が忍を口説いていたのが、なんだかえらく遠い昔の事の様で、懐かしかった。
「お前、飯は食ったのか?今日休みだったろ?」
嶋は運転しながら、ちらっと忍を見る。
「うん、ちょこっと。今はあんまり何か食べたいって気分でもないけど」
「なんだ、蒔田と喧嘩でもしたか」
「喧嘩っていうか…」
忍は何も言えなくなってしまった。こういう場合、どういう言い方が正しいのかわからなかった。
恋人じゃないから別れ話じゃないし、喧嘩ってのも少し違うし…。
「喧嘩じゃないけど…清算しようかって話」
きっとそれが一番適当だ。
「別れ話か」
「別れるっていう感じじゃないんだよね。最初から、静矢さんとおれは付き合ってたわけじゃないから」
「どういう意味だ、それ」
「寝てただけ」
「あぁ!?」
嶋は急に声を荒げた。心なしか、運転まで荒くなっているような気がして、忍は嶋を慌てて宥める。
「嶋さん!安全運転!」
「だったら黙っとけ。家に着いてからたっぷり聞いてやる」
嶋はそう言ってから一言も話さなかった。もちろん、忍も、ただ黙って、事を話す順番を考えていた。

嶋の家に着いて、玄関に入った忍は驚いた。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
嶋に返すその声は、忍があまりに聞き慣れたものだった。
「千春…!」
「こんばんは、忍さん」
嶋は、頭を掻いて少し照れくさそうに言った。
「うちの、犬だ」
その言葉に、千春はぷっと噴き出して笑った。
「僕、少し前からここに居候させてもらってるんです」
「そうだったんだ…」
全然知らなかった。
家の中には野菜を煮込んだような、いい香りが漂っている。
「ちょうど嶋さんが帰って来た時、電話があったんですよ。お腹空いてます?今日はポトフなんですけど、たくさんあるんで、忍さんの分も取れますよ」
「ありがとう。少しだけもらっていい?」
「さっきは食欲ないとか言ってたくせに」
嶋がニヤリと笑って言う。忍は、そんな嶋を睨んだ。
「どうぞ、忍さん。嶋さんも、出来ましたよ」
三人はそろってテーブルに着いた。

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