愛してるって言って!
第5章 【夜の闇は白い朝を連れてくる】
「嶋!そっちに忍が行ってないか?」
電話に出た途端、これまでにないほど焦った、静矢の声が耳に飛び込んできた。
「やっぱりお前か」
「嶋、忍は?」
「来てるよ」
嶋がそう言うと、静矢は安堵のため息を、電話の向こう側でついたようだった。
「良かった!代わってくれるか。何度かけても繋がらなかったんだ」
「あぁ…そりゃあ繋がらないだろうな。忍は今シャワー浴びてるから」
嶋は、風呂に入っている、とは敢えて言わず、シャワーを浴びている、という言葉を使った。自分でも随分な意地悪をしているとは思う。けれど、嶋は静矢の気持ちを試したかったし、何よりも、静矢に一番頭に来ていたので、快く忍を渡す気分にはなれなかった。そんな嶋を、千春は不安そうに見つめていた。
「シャワー…?」
少しの沈黙があった後、静矢は何かを疑うような声でそう言った。
「ガキじゃあるまいし、考えりゃわかるだろ」
「嶋…お前まさか…」
その時確かに、静矢の声色が変わった。
「何だよ」
嶋は、わざとしらばっくれた。静矢が次第に苛立っていくのがわかる。
「いや、いい。今から忍を迎えに行く。そう伝えといてくれ」
「忍には、今日は泊めてくれと言われてるぞ」
「迎えに行く」
そう一言だけ言って、静矢は電話を切った。あの調子じゃ、きっとすっ飛んで来るに違いない。
「電話、蒔田さん?」
「あぁ、迎えに来るらしい」
「そっか、良かった」
「どうだかな。死んだあいつの嫁さんには悪いが、故人ってのは時に生きている人間よりも影響力が強くなったりするもんだから。まぁ、あれだ。簡単に言葉を選ばないで言えば、ずるくて厄介な位置にいるってわけだ」
静矢が忍を好きだという事は嶋はわかっている。忍も静矢がずっと好きだった。問題なのは、静矢と忍の心の中には、未だに茜がいるという事だ。お互いにその傷をよく知る二人だからこそ、寄り添える一方で、相手を傷つける事を極端に怖がるのだろう。
「嶋さんは、どうするんですか」
千春の声はこわばって、少し掠れていた。
「嶋さんは、やっぱり忍さんの方がいいですか」
嶋はソファに座って、無言で特に興味もない雑誌を開いた。
電話に出た途端、これまでにないほど焦った、静矢の声が耳に飛び込んできた。
「やっぱりお前か」
「嶋、忍は?」
「来てるよ」
嶋がそう言うと、静矢は安堵のため息を、電話の向こう側でついたようだった。
「良かった!代わってくれるか。何度かけても繋がらなかったんだ」
「あぁ…そりゃあ繋がらないだろうな。忍は今シャワー浴びてるから」
嶋は、風呂に入っている、とは敢えて言わず、シャワーを浴びている、という言葉を使った。自分でも随分な意地悪をしているとは思う。けれど、嶋は静矢の気持ちを試したかったし、何よりも、静矢に一番頭に来ていたので、快く忍を渡す気分にはなれなかった。そんな嶋を、千春は不安そうに見つめていた。
「シャワー…?」
少しの沈黙があった後、静矢は何かを疑うような声でそう言った。
「ガキじゃあるまいし、考えりゃわかるだろ」
「嶋…お前まさか…」
その時確かに、静矢の声色が変わった。
「何だよ」
嶋は、わざとしらばっくれた。静矢が次第に苛立っていくのがわかる。
「いや、いい。今から忍を迎えに行く。そう伝えといてくれ」
「忍には、今日は泊めてくれと言われてるぞ」
「迎えに行く」
そう一言だけ言って、静矢は電話を切った。あの調子じゃ、きっとすっ飛んで来るに違いない。
「電話、蒔田さん?」
「あぁ、迎えに来るらしい」
「そっか、良かった」
「どうだかな。死んだあいつの嫁さんには悪いが、故人ってのは時に生きている人間よりも影響力が強くなったりするもんだから。まぁ、あれだ。簡単に言葉を選ばないで言えば、ずるくて厄介な位置にいるってわけだ」
静矢が忍を好きだという事は嶋はわかっている。忍も静矢がずっと好きだった。問題なのは、静矢と忍の心の中には、未だに茜がいるという事だ。お互いにその傷をよく知る二人だからこそ、寄り添える一方で、相手を傷つける事を極端に怖がるのだろう。
「嶋さんは、どうするんですか」
千春の声はこわばって、少し掠れていた。
「嶋さんは、やっぱり忍さんの方がいいですか」
嶋はソファに座って、無言で特に興味もない雑誌を開いた。