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愛してるって言って!

第5章 【夜の闇は白い朝を連れてくる】

それについてはまた別の話なんだがな。
「あの…もう無理かもしれないけど、僕、待ってます。嶋さんの事」
「千春」
嶋は、立ち上がって千春に近づいていく。千春は、そこに項垂れるようにして立っていた。
「オレは、今はお前の所に帰って来ようと思ってる。だが、正直自分でもどうなるかわからないんだ。オレは今…お前に相当失望してるしな」
「はい…」
「だけど、お前の気持ちはちゃんと、わかってるつもりだから」
嶋は、千春の肩に手をそっと置く。
だがもし、蒔田の奴が腑抜けなら…忍は渡せない。
その目は今、鋭く睨みつける様に宙を見ていた。

それからしばらくして、静矢の車が嶋の家の前で停まった。ちょうど忍は風呂から上がった所だったが、静矢が来た事を知ると、途端に表情を曇らせ、会う事を渋った。
嶋は二人を家の中に残して一人、外へ出る。嶋としても、静矢とは差しで話をしたかった為、それは好都合だった。
「随分速かったな」
「忍は」
車から降り、静矢は嶋に近づいて言う。
「安心しろ。忍を食ったりはしてない」
「だったら、早く忍に会わせろ」
静矢は嶋の家を一瞥して言った。
「今は会いたくないそうだ」
静矢は顔を歪め、辛そうに目を逸らした。
「こっちもお前に聞きたい事が山ほどある」
嶋は、静矢を暗がりの中で睨みつける。
「聞きたい事?」
「蒔田。お前、忍を捨てたんだってな」
「…あいつが、そう言ったのか」
「答えろよ。あいつを…忍を捨てるのか」
静矢が、すぐに答えなかった事に、嶋は苛立ちを覚えた。だが、今またその目を伏せたまま、静矢はしばらく何も言わなかった。
「何とか言えよ、蒔田!」
「お前には、関係ない」
「何だと…!?」
嶋の心の中でくすぶっていた怒りが爆発する。嶋は自分が思うよりも速く、静矢の胸倉を掴んでいた。

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