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愛してるって言って!

第1章 【酒と男と双子の弟】

香りはいいが…。
「義兄さん、疑ってるでしょ?これ本当に美味しいんだから!」
忍は静矢の様子に気付き、ムッとして口を尖らせる。
「忍、仕方ないって。蒔田の味覚は小学生レベルって事を忘れたか?」
悪いがお前に言われたくない。自分の味覚が優れている、とは思えないが、少なくともこいつよりは絶対にマシだ。
「ほっとけよ」
静矢は、嶋をジロッと睨みつけた。
「ねぇ、義兄さん。騙されたと思って食べてみてよ」
嶋は、既に一口食べて、美味い、美味いと頷いている。
「いただきます…」
少し赤みがかった、ひき肉入りのルーとご飯を半分ずつ程掬い、一口食べて、静矢は反論する気もなくなった。
「うまっ…」
「でしょ!?やったー!さっきマスターも食べてくれて、お墨付きもらったんだ!」
「お前な…。それを先に言ってくれよ」
静矢は呆れて忍を見る。
「ごめん、ごめん!お代わり、あるからね!」
「あっ忍!ビール!ビールくれ!」
嶋が急に思い出した様に言うと、忍は途端に顔をしかめた。
「えぇっ!?嶋さん、また飲むの!?」
「一杯だけだよ、一杯だけ」
「一杯だけでも、運転はできないじゃん」
「だからさ、またよろしく」
「えぇ…またぁ?」
忍はまた口を尖らせて、グラスに注いだ生ビールを仕方なく嶋に差し出した。急に不機嫌になった忍を、嬉しそうに眺めながら、嶋はそのグラスに口を付ける。
嶋は、いつもこうして一杯だけ酒を飲んでは、帰りは忍に送らせていた。嶋を送った後、忍は当然帰りの足がなくなるので、静矢がその後から追いかけるように車でついて行き、忍を乗せて帰る。
「あんまり常用するなら、そのうちお金取るからね」
全くだ。運転代行を無償でやっているようなものなのだから。
静矢は忍の言った事に、心の中で同意した。

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