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愛してるって言って!

第1章 【酒と男と双子の弟】

茜と結婚して、義理の兄弟となってから、なぜか遠くなったように感じていた忍との距離は、一緒に暮らすようになって、だんだんと昔の、友人だった頃の様に戻り始めていた。静矢は忍と話していると、つい楽しくなって、学生時代に戻ったような気分になる。そして、時間を忘れて話し込んだ後は、なぜか妙に安心してしまう。いくら話しても話題が尽きないのは相変わらずだった。
それでも、どうして忍が突然那須にやって来て、どうして静矢と一緒に住んでいるのかは、未だに聞けずにいる。
「ちょっと東京に疲れた」と言っていた事はあったが、それは本当なのだろうか。もしかしたら自分を心配して、そばにいてくれているのでは、と静矢は思う時もあるが、それを確かめる事はできなかった。ここになぜ来たのか、なぜ居候を続けているのか、と問えば、それは忍がいつまでここにいるのか、という話に繋がってしまいそうで、どうしても話せないのだ。
正直、忍が那須に来てくれて、助かっている事は多い。気ままに一人で暮らす事は、自由があって楽だが、そこに不安や、寂しさがあった事もまた事実だった。けれど、忍がいる事で不思議とそれが消え、いつの間にか生活そのものが楽しいと思えるようになった事に、静矢は気付いていた。もし、それを知った誰かに、忍を利用している、と後ろ指を指されたとしても、反論はできないだろう。
今の俺には、忍が必要なんだ…。
本当にずるくて、情けない。
静矢は忍が運転する嶋の車を追いながらそう思い、自分を責めていた。

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