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愛してるって言って!

第1章 【酒と男と双子の弟】

『唇の記憶』

「もういい加減にしてよ」
苛立った声で、ハンドルを握っている忍は言う。
「何が?」
嶋は、必死に笑いを堪えながら、そう返した。
「わかってるからね。口説く為に毎日お酒飲んでるって」
「酒は好きで飲んでるんだ。それに仕方ないだろ?こうでもしなきゃ、お前と二人っきりになれないんだから」
吐息混じりの、まるで囁くような嶋の声に、忍は更にイラッとした。
「前も言ったけど、おれ、嶋さんとは無理だよ」
「ふうん。で、あいつならいいわけ?」
嶋は親指を立てて、後方を指差している。嶋の車のすぐ後ろには、静矢の車が着いて走っていた。
「そう、言ったじゃん」
「無謀だな。万が一、あいつに抱いてもらえたとしても、嫁さんの面影お前に重ねて、身代わりにされて終わるだけだぞ。やめとけ、やめとけ」
嶋はそう言うと、忍を茶化すように笑った。
「ほっといてよ!おれはおれの気の済むようにしたいだけなんだから」
「じゃあその代わり、オレの事もほっといてくれよ。オレはお前を振り向かせたいだけなんだから」
あーもうっ!
忍は、何も言わずに、嶋の言葉を流した。この嶋という男は、本当に口の減らない男で、もしも上げ足を取るとか、あー言えばこー言う選手権みたいな大会があったら、日本一になれるのではないか、と忍は思っていた。
「しっかし長い片想い続けてるよなぁ。いい加減飽きないのか?もうかれこれ八年くらい経つんだろ?」
「仕方ないでしょ。好きなんだから…」
自分で言ったくせに、顔が急に熱くなっていく。
「くそー。それをオレに言ってくれればなぁ。一瞬でハッピーエンドになるのに」

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