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愛してるって言って!

第1章 【酒と男と双子の弟】

忍は大学の頃、バイト先で知り合った静矢に、もうずっと片想いを続けていた。初めてのバイトに緊張していた忍に、仕事を一つ一つ、丁寧に教えてくれた静矢は、スラッとして背が高く、爽やかな好青年だった。いつも落ち着いていて、優しくて、一緒にいると安心できる先輩で、忍は、そんな静矢をすぐに好きになってしまった。
昔は、静矢さんとよく遊んだな…。
学生の頃は、静矢と一緒にいる事が楽しかったし、そばにいられる事も嬉しかった。
忍は元々、自分が同性愛者だという事を早くから自覚してはいた。だが、それまでは誰かを好きになっても、単なる憧れとか、少し気になる程度で、はっきりと恋愛感情を持った事はなかった。厳密に言えば忍には、叶う可能性の低い気持ちを、自分で抑え込む癖がついていたのだが、静矢への気持ちは、抑えようとすればするほど、募っていくばかりだった。それは不安である一方、幸せだった。そばにいると時々、静矢と恋人同士になりたい、と思う時もあったが、そこはやはり難しい事だとわかってはいたし、今は近くにいられるだけ幸せだと、その頃は本当にそう思っていた。

だが、ある日。茜から、静矢と付き合う事になった、と聞いて、忍は今までの全てを一瞬で後悔した。
仲良くならなきゃ良かった。
好きにならなきゃ良かった。
好きだって、言えば良かった…。
そんな事を思ったところで、もう全てが遅かった。それからは、幸せそうな二人に祝福の言葉をかけるのが精一杯で、無理矢理笑顔を作って話す事が本当に辛かった。あの頃は、本当によく泣いた、と今でも忍は思う。
静矢のそばにいられればそれでいい、と思っていた忍の中の淡い恋心は、いつの間にか、静矢を独り占めしたいという、強い想いに変わってしまっていた事を、忍はその時、やっと気付いたのだった。
その気持ちは、今でも逃げ場を失ったまま、諦めきれずに、結局今も拗らせ切って、忍の心の中に留まっている。静矢が茜と結婚した時も、茜が自殺した時も、それは変わらなかった。忍は、どうしたって静矢への気持ちを諦める事ができない自分を延々と責め続け、もう長い事自己嫌悪に陥り、苦しんでいた。

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