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愛してるって言って!

第1章 【酒と男と双子の弟】

「そんな顔しちゃって。本当、妬かせてくれるよな」
嶋が忍を見つめて言う。
「一度抱かせてくれたら、絶対虜にしてみせるのに」
「嫌だよ」
静矢さん以外なんて、絶対嫌だよ。
嶋の事は別に嫌いではない。だが、体の関係とか、恋愛とか、そういう風にはなれない。忍は、もうずっと静矢だけを見つめてきた。今更、他の男と…なんて考える気にもならなかった。
「でも、キスは上手かったろ?」
嶋がそう言った瞬間、忍の顔は火が噴いたように熱くなる。
「ちょっ…事故るからっ…!やめて!」
「顔真っ赤」
「嶋さん!」
「可愛い。やっぱ良かったんだ」
嶋の顔を見ずとも、可笑しくて仕方ない、という顔をしていると、その声でわかる。
「もう忘れてよ。大体あれは、嶋さんが急にしてきたんじゃん」
「受け入れたくせに」
「だってあの時は…お酒も入ってたし…」
三ヶ月前。静矢を追ってこの町へやって来たばかりの頃、忍が想像していた以上に、静矢は沈んでいて、まるで生気がなかった。茜の死から三年が経ってはいたものの、やはり依然として悲しそうな静矢を見るのは辛く、ここへ来るべきじゃなかったかもしれない、と忍は思っていた。

そんな日が続いた矢先、忍は静矢に嶋を紹介された。その日は忍が、美術館のカフェで働く事が決まったので、紹介と、歓迎も兼ねて店で少し飲もうという事になっていた。嶋は一目会っただけで、忍を偉く気に入った様で、酒を飲みながら初対面の忍を散々口説き、散々絡んだ。大方、静矢とマスターは、嶋が悪酔いしているとでも思っていただろう。
そのうちに、嶋は酔っぱらって寝てしまった。いや、正しくは、寝たふりをしていた。実は嶋はとんでもないザルで、もちろん多少酔ってはいたのだが、潰れていたわけではなかった。そんな事とは夢にも思わなかった忍は、店の二階にある休憩室で、嶋を懸命に介抱したのだった。
しばらくして、マスターが片づけを始め、見兼ねた静矢が嶋を家まで送ろうと、車を取りに出て行った時だった。やっとこれで帰れる、と安堵したその瞬間、忍は嶋に、一瞬で唇を奪われた。酔っ払いとは思えないほど強い力で手首を抑えられ、無理矢理に熱く火照った唇を押し付けられ、舌をねじ込まれた。その時、静矢への想いに悩み、自暴自棄になりかけていた忍は、酒が入っていたのもあって、なんとなく流されてしまい、それを受け入れてしまったのだった。

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