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愛してるって言って!

第1章 【酒と男と双子の弟】

『秋の夜長に』


「おい、嘘だろ?冗談だよな?」
嶋は慌ててうろたえている。
嘘じゃないし。まぁ、姉ちゃんにちょっと対抗して、おれが勝手にしただけ、だけど。
しかも、一晩中ゲームに明け暮れて、死んだように眠っていた静矢の唇に、だ。

嶋は最後まで動揺していた。そんな嶋には構わず、忍は嶋の家の前に車を停めると、背を向けたまま、ひらりと手を振った。
嶋さんにはいい薬かも。
出会ってからこの三ヶ月間、嶋は忍を執拗に口説いていた。もちろん、それ自体は悪い気分でもないのだが、酒を飲む度に車で送り届けるのも、車の中でしつこく口説かれるのも、そろそろ面倒になってきていた所だった。
もし、静矢さんにばらされたら、冗談で済ませればいいや。

「お疲れ」
静矢の車に乗り込むと、静矢は優しく微笑んで忍に声をかける。
「お疲れ様。義兄さん、ありがとね」
「いや、こっちこそ悪いな。毎回、毎回」
「本当だよ。まぁでも、後ろから義兄さんがちゃんと来てくれてるからいいけどさ」
義兄さん。そう呼ぶ度、忍は静矢との距離を感じてしまう。義理の兄、というだけで、こんなにも遠く、届かないと感じるのは不思議だった。本来なら、近親者なのだから、遠く感じるなんて事はないはずなのに。

静矢さんが、好きだ…。
運転する静矢の横顔を見て、忍は思う。無謀な片想いだとしても、だからと言って諦められるはずもなく、忍が八年もの間抱えて来た想いは、時を重ねれば重ねる程募り、厄介なものになっていくのだった。


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