テキストサイズ

愛してるって言って!

第1章 【酒と男と双子の弟】

「義兄さんは?どう?」
「俺?俺は、まぁまぁかな」
「そっか」
「お前がいてくれて、助かってるよ」
「え…?おれ?」
静矢は、嬉しそうに頷いてからコーヒーを飲む。
「俺は、那須に来てから、仕事以外じゃ話し相手もいなかったからな。まぁ、今は嶋もいるし、東京のマンションにいた時だって、似たようなもんだけどさ。ここは静かだし、心は休まるけど、全く新しい環境で一人でやってくのって、意外と不安なもんなんだなって思ったりもしてたんだ。正直、忍が来た時は驚いたけど、なんかホッとした。だから、いてくれて本当に感謝してるよ」
「ううん。なら良かった。じゃあ…」
忍は静矢の顔をちらっと窺う。
「おれずっと、ここにいようかな」
「ずっと?」
「なんて、ね」
嘘だろ?とか、勘弁してくれよ、とか、てっきりそういう答えが返ってくるものだと思っていた。それなのに。
「いいよ。好きなだけいろよ」
そんな事を、そんな風に優しく言う静矢に、忍の胸の音はまた、急に速く鳴り始める。
これはそういうんじゃない。義理の弟だからだ。
わかってはいる。家族だから。近親者だから。だからそばにいさせてもらえるだけの事なのだと。でも…。
ごめん、茜。おれやっぱり…この人を諦められそうにない。
忍の目は、真っすぐに静矢を見つめる。そんな忍に気付き、静矢はまた優しく、微笑むのだった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ