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愛してるって言って!

第1章 【酒と男と双子の弟】

『ほろ酔い』

日曜日の朝。今日も爽やかな青空が広がっている。森の中に佇む家のベランダに出て、静矢は思いっきり深呼吸をした。むせ返るような土と木の匂いがする。たくさんの木々の隙間から見える空は、抜けるように晴れていた。
「空が高いな…」
茜は、秋になって空が高くなるのは寂しいと、よく言っていたっけな。
空が高い事が、なぜ寂しくなるのか。不思議な事を言う、と思ったのはもう四年も前の事だ。

「おはよう」
頭を掻きながら、眠そうな目を擦って忍がやって来る。
「いい天気だね…」
そう言って大きな欠伸をしてから、眩しそうに空を見上げる。今ではすっかり見慣れたいつもの朝の風景だ。
「コーヒー飲むか」
「うん。淹れてくれるの?」
「お前のみたいにはいかないけどな」
「何言ってんだか」
そう言って笑った忍をベランダに残し、静矢はキッチンへ行った。お湯を沸かして、二人分のコーヒーを淹れると、それをベランダまで持って行き、手すりに置く。
「ありがと。いい香りだね」
忍が嬉しそうに微笑んでいる。その横で、静矢はコーヒーを一口飲んでから、首を捻った。
「やっぱり、ちょっと違うんだよな」
「何が?」
「お前に淹れてもらったやつの方が絶対美味い」
同じ水で、同じ豆のはずなのに。
「おれのは魔法をかけてるからね」
忍はそう言って、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

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