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愛してるって言って!

第1章 【酒と男と双子の弟】

「美術館の方、今忙しいの?」
「あぁ、季節に合わせて、展示品を少しずつ替えるからな」
「ふうん。なんか大変そう」
美術館では、今週から展示品を大幅に替えている。そのせいもあって、学芸員の仕事はここのところ必然的に忙しくなっていた。
「そうやって少しでも変化を見せないと、客は飽きてしまうんだろう。なんて言ったって集客が大事だからな」
「集客か。確かにね。美術館に人が来ないと、うちも困るもんな」
真っ暗な山道をヘッドライトで照らしながら、車は走って行く。
「おれ、芸術って正直、今もよくわかんないし、それこそ日本画なんてここに来るまで、興味もなかったんだよね。画家の名前とか、作品とか、ほとんど知らなかったし。だけど、ここに初めて来た時、美術館の雰囲気がすごく好きだと思ったんだ。たまにね、ふらっと来たくなる感じ」
なるほど、そんな楽しみ方もあるのか。
「でもその割に忍は、美術館には顔を出さないよな」
「だって嶋さんがいるから」
当然のようにそう言った忍の声を聞いて、静矢は可笑しくなって笑った。運転中は話していてもなかなか顔を見れないが、忍は今、絶対に口を尖らせているはずだ。
「めんどくさいんだもん。急に話が説教臭くなったと思ったら、実はすっごいどうでもいい話だったりしてさ。大体あの人、いつもおれの事からかってばっかだし」
店に着くまで、静矢は、忍が話す嶋の愚痴を延々と聞いていた。
まるで口の悪いラジオだな。
どうやら忍は、嶋に気に入られたばっかりに、散々からかわれ、日々振り回されているようだった。

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