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愛してるって言って!

第2章 【四人の男は恋をしている】

静矢はその日、夜に挙式の予約が入っているとの事で、帰りがかなり遅くなるようだった。忍は嶋の車で家まで送ってもらい、先に家に帰る事になった。
昨日は、そんな事言ってなかったけど…。
忍は、嶋の車に揺られながら、窓の外を見つめる。
「避けられてたりして…」
つい、不安が口をついて出る。一瞬、嶋の視線を感じたような気がした。
やっぱり、急に名前で呼んだりしたせいで、変に思ってるかもしれない。
そう思った時。嶋は面倒くさそうにため息をついた。
「同じ屋根の下に住む奴を避けてどうする。思春期でもあるまいし。蒔田は今年三十のおっさんだぞ」
珍しく嶋が、まともに励ましてくれたので、忍は妙に可笑しくて堪らなくなった。
「珍しいね。嶋さんがそんな風に言ってくれるなんて」
「惚れてる奴が助手席でへこんでたら、誰でもそうなる」
「そんなもん?」
「そうだ」
「そっか」
「そうだ」
「っていうか、嶋さんだってそんなに歳変わんないじゃん。おっさんだよ」
「あぁ、そうだ。言っとくが、お前ももれなくおっさんだ」
忍はぶっと噴き出して、けらけらと笑った。
「本当だ。アラサーだもんね」
「酒も飲むしな」
「うん」
「だけどおっさんになってからの方が、恋愛ってのは難しいもんなんだな」
嶋はそう言って、少し寂しそうに笑った。

しばらく山道を走った後、車は静矢の家の前に着いて、忍はシートベルトを外した。
「ありがとう、嶋さん。じゃ、おやすみなさい」
「忍、ちょっと待った」
「何?」
忍が振り返ったその瞬間、嶋は忍を抱き寄せてその唇を塞いだ。一瞬で柔らかい感触と熱が伝わって、忍の身体には咄嗟に力が入る。
「嶋さん…!ちょっと…!」
「タクシー代。安いもんだろ」
忍は、嶋を突き飛ばし、急いで車を降りた。
「嶋さんは動物以下だよ!」
動物以下のおっさんだ!
慌てふためく忍を見て、嶋はいつも通りの笑みを浮かべて言う。
「人間なんてみんなそうなんだよ。おやすみ」
嶋の車はUターンをして、来た道をまた戻って行った。

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