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忍は、家へ着くと真っすぐに寝室へ向かい、すぐに寝てしまった。千春や嶋に随分気を遣っていた様だから、無理もない。静矢はシャワーを浴びて、いつも通りコーヒーを淹れた。それを一杯だけ飲むと、寝る支度をして、既に眠っているであろう忍を起こさないように、そっと寝室へ入る。
案の定、忍は静かな寝息を立てて気持ちよさそうに眠っていた。静矢はそんな忍の顔をじっと見つめる。やたら心臓がうるさい。それは痛いほど波打っていて、煩わしさすら感じてしまうものだった。
まずい。さっさと寝よう。
その時だった。
「静矢さん…」
掠れたような声で、何か懇願でもしているかのように、忍は眠ったまま静矢の名前を口にした。心臓の鼓動が更に速く鳴る。
頼むから、そんな声で呼ぶなよ…。
静矢は暗がりの中で、忍の柔らかな細い髪を、優しく撫でた。
「ん…」
何か楽しい夢でも見ているのか、忍はほんの少し笑みを浮かべている。
静矢は温かなその頬に触れてから、そこへそっと口付けた。
「忍、おやすみ」
この夜から、静矢の理性は少しずつ、だが確実に、崩れ始めていた。