愛してるって言って!
第2章 【四人の男は恋をしている】
『嶋』
美術館スタッフの仕事は、多岐に渡る。展示品の管理、収集から保存、調査、研究、客の案内、対応、細かい雑務、時には庭の手入れまでする事もある。庭園には業者が入る事もあるにはあるのだが、ここは東京都内の美術館とは違い、来場者の行列が年中できるような場所ではない。庭園の手入れを毎回業者に全て任せてしまえるような余裕はない為、なるべくなら、できる事は自分達でやらなければならなかった。
「今日は火曜日か」
全くつまらないもんだ。
からかって遊ぶ対象の静矢と忍が、二人揃って休むこの火曜日ほど、嶋が退屈な日は一週間の内で他にない。まだ一人で過ごす休日の方が遥かにマシだと、嶋は思った。
嶋にとって、静矢は恋敵ではあるが、何かと相談できる仕事仲間であり、良い友人でもある。職種こそ違うものの、嶋は静矢の仕事ぶりを信頼している。ウエディングプランナーとしても、美術館スタッフとしても臨機応変に動いてくれる静矢は、悔しいが、何をさせてもできる男だった。
「ずるい奴だ」
つい、そんな独り言を呟いた時。
「こんにちは」
後ろから聞き覚えのある声がして、嶋は振り返る。そこには、千春がにこっと笑って立っていた。
「千春か」
「嶋さん、お疲れ様です」
「お前、今日仕事は?」
「今休憩中なんです」
「あぁ、休憩か。それにしても、僅かな休憩時間を使って美術館へ来るほど、絵画鑑賞が好きだったとは聞いてないな」
「元々、興味はあったんですよ。日本画は、あまり観た事なかったけど…。でも、知りたいなって思って。ほら、お客様とお話しする事も今後あると思いますし…」
なるほど、純粋でいて、しかも偉く真面目な人間のようだな。
嶋はそういう人間が嫌いじゃなかった。
「ここの事を知った時は、不思議な美術館だなって思ってました。日本画を主に展示してるのに、庭にはチャペルがあるなんて」
「チャペル、というよりは講堂、だな。ステンドグラスの模様なんかも、キリストとか、聖母マリアじゃない。奥村土牛の『醍醐』って絵をモチーフにしたもので…」
きょとんとした顔つきで、嶋の話を聞いている千春に気付き、嶋は一つの絵の前へ千春を連れて行った。
美術館スタッフの仕事は、多岐に渡る。展示品の管理、収集から保存、調査、研究、客の案内、対応、細かい雑務、時には庭の手入れまでする事もある。庭園には業者が入る事もあるにはあるのだが、ここは東京都内の美術館とは違い、来場者の行列が年中できるような場所ではない。庭園の手入れを毎回業者に全て任せてしまえるような余裕はない為、なるべくなら、できる事は自分達でやらなければならなかった。
「今日は火曜日か」
全くつまらないもんだ。
からかって遊ぶ対象の静矢と忍が、二人揃って休むこの火曜日ほど、嶋が退屈な日は一週間の内で他にない。まだ一人で過ごす休日の方が遥かにマシだと、嶋は思った。
嶋にとって、静矢は恋敵ではあるが、何かと相談できる仕事仲間であり、良い友人でもある。職種こそ違うものの、嶋は静矢の仕事ぶりを信頼している。ウエディングプランナーとしても、美術館スタッフとしても臨機応変に動いてくれる静矢は、悔しいが、何をさせてもできる男だった。
「ずるい奴だ」
つい、そんな独り言を呟いた時。
「こんにちは」
後ろから聞き覚えのある声がして、嶋は振り返る。そこには、千春がにこっと笑って立っていた。
「千春か」
「嶋さん、お疲れ様です」
「お前、今日仕事は?」
「今休憩中なんです」
「あぁ、休憩か。それにしても、僅かな休憩時間を使って美術館へ来るほど、絵画鑑賞が好きだったとは聞いてないな」
「元々、興味はあったんですよ。日本画は、あまり観た事なかったけど…。でも、知りたいなって思って。ほら、お客様とお話しする事も今後あると思いますし…」
なるほど、純粋でいて、しかも偉く真面目な人間のようだな。
嶋はそういう人間が嫌いじゃなかった。
「ここの事を知った時は、不思議な美術館だなって思ってました。日本画を主に展示してるのに、庭にはチャペルがあるなんて」
「チャペル、というよりは講堂、だな。ステンドグラスの模様なんかも、キリストとか、聖母マリアじゃない。奥村土牛の『醍醐』って絵をモチーフにしたもので…」
きょとんとした顔つきで、嶋の話を聞いている千春に気付き、嶋は一つの絵の前へ千春を連れて行った。