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愛してるって言って!

第2章 【四人の男は恋をしている】

『千春』

「雨ばっかりだなー」
店を開けながら、忍が口を尖らせる。
「秋雨前線が停滞してるって、テレビで言ってましたね」
「そうなの?最悪」
「なんか…あるんですか?」
「あぁ、うん。たまには静矢さん誘って、出かけたいなって思ってたから」
忍は秋が好きだ。少し空気が澄んで、乾いた風が吹くと、木はあっという間に葉を赤く染めていく。山全体が赤や黄色に染まった姿は、本当に綺麗だ。それに秋は、夜が長いのも良い。だがこう雨が多いと、色づいた葉はどんどん散ってしまいそうだし、出かける気が起きないまま、いつの間にか秋は終わってしまいそうだった。
もう来月か…。
来る十二月には静矢の誕生日がある。忍は、プレゼントに何を贈ろうか、と迷っていた。今年は、那須へ来てから初めての静矢の誕生日だ。何か、特別なお祝いをしたい気もするし、返ってそれは変かもしれないとも思ったりもするが、何もしないという選択肢は忍にはない。
そろそろリサーチしようかと思ってたけど、こう長雨じゃ一緒に買い物行くのもなぁ。
「とりあえず、今週はやめとこうかな」
そう言った忍を見つめて、千春が言う。
「あの、忍さん。忍さんと、蒔田さんって、ご兄弟なんですよね?」
「義理のね」
そこは忍の中では重要…だったりする。千春には、静矢と忍の関係をあらかじめ話してあった。千春を採用すると決めた時、マスターが気遣って、主には茜の事なのだが、千春に話をしてくれたようだった。
「そっか」
「なんで?」
「あ、いえ。仲いいなって思ってたんで」
「そう見える?」
「はい、すごく」
嬉しいような、少し恥ずかしいような気持ちになって、自然と忍の口角が上がる。
「別に普通だよ」
冷静を装っても、やはり嬉しいものは嬉しい。忍は、思わずにやけた顔を、必死に隠した。
その時、カラン、と扉が開く音が鳴った。

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