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愛してるって言って!

第3章 【合縁奇縁】

静矢は、一階の部屋で、一人分のコーヒーを淹れながら、テレビを消音のままボーッと眺めていた。食欲はまるっきりなかった。
バチが…当たったんだろうか。
茜の、弟である忍に恋をしたりして、忍の優しさに甘えているから…。
だけど、もう失いたくない。どうせなら、俺に当ててくれ。
静矢は、心の中で誰かに向かってそう願った。
この世に神様なんかいないって、とうに信じる事を諦めてたはずなのに、一体、俺は誰に頼んでるんだ…。
窓の外では、今また雪が降り出している。それは更に積もっていき、そこにある全ての音を飲み込んで、怖いくらいに静かな夜を作り出していた。

「茜?ただいま」
あの日、静矢が家に帰ると、マンションの鍵は開いていた。しっかりしている茜にしては珍しい、と静矢は思った。扉を開けると、家の中はしん、と静かで、そこに人の気配はなかった。
「茜?いないのか?」
耳を澄ませると、水の雫が少しずつ落ちる音が、風呂場から聞こえている事に気付いた。
「茜?」
いつもとは何か違う雰囲気を感じ、静矢はおそるおそる風呂場の扉を開ける。そこへ踏み入った静矢は、言葉を失った。風呂場は、鮮やかな赤に染まっている。その真っ赤な風呂釜の中に、服を着たまま、まるで眠るようにして茜はいた。頭の中は真っ白だった。ただ唖然として、しばらく目の前にあるその光景を見つめた。
「茜…?」
悪い冗談かと思った。だが、確かに、茜は真っ赤な液体が張られた風呂の中で、眠るようにして死んでいた。それが何なのかくらい一瞬でわかったが、それを現実としてすぐには受け止められなかった。
次の瞬間、静矢の頭に、茜の言葉が響くように聞こえる。
「大丈夫。私が死んでも、ちゃんと愛してくれる人が、静矢くんにはいるから」

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