
愛してるって言って!
第3章 【合縁奇縁】
『その魔法を解かしたのは』
「いらっしゃいませ…」
とある日の夕方、店にやって来た男は、見覚えのある顔だった。千春は、思わず固まってしまい、身動きが取れなくなる。
「あれ…千春?千春じゃないか!」
その男は、明るい声で駆け寄って来て、そっと千春の肩に手を置いた。思わず、千春は背中がぞわっとして後ずさりする。
「勇司さん…」
千春が東京にいた頃と、その男は何一つ変わっていなかった。人懐こそうな笑顔、体格のいい身体、低くて甘い、色気のある声。その男、樋山勇司は、千春が二年間付き合っていた元、恋人だ。千春は、勇司の全てが大好きだった。明るく、快活な性格も、ジムで鍛えている逞しい身体も、優しい笑顔も、そして夜、ベッドの上で千春を抱きながら、耳元で甘い言葉を囁くその声も。
「あら。何、勇司。お友達?」
勇司の後ろから少し遅れて、スタイルのいい、綺麗な女性が顔を出す。さらさらとした真っすぐな長い髪を片方だけ耳にかけていて、見えている耳には、小さな赤いピアスをしていた。
「あぁ、昔の知り合い。千春、オレの婚約者だ」
「百合です。よろしく」
「どうも…」
昔の知り合い…か。そりゃそうだよね。
婚約したばかりの相手に、元恋人が同性…なんて事がバレたら、一大事だろう。婚約は白紙になり兼ねないし、この先も変な噂がたってしまう可能性もある。それはわかってはいるが、やはり寂しいものではあった。
「しかし驚いたな。千春が店辞めてから、あの店に行っても、本当に寂しくてさ。何も言わないで辞めちゃって、どこ行ったのかと思ってたんだ」
「お…覚えてて、くれて…ありがとうございます」
「何言ってんだよ、当たり前だろ。千春の事は、忘れるわけないよ」
腹が立つほど優しい、深みのある声は、やはり変わっていない。その声が確かに好きだった事を、千春の身体中が覚えていた。
「いらっしゃいませ…」
とある日の夕方、店にやって来た男は、見覚えのある顔だった。千春は、思わず固まってしまい、身動きが取れなくなる。
「あれ…千春?千春じゃないか!」
その男は、明るい声で駆け寄って来て、そっと千春の肩に手を置いた。思わず、千春は背中がぞわっとして後ずさりする。
「勇司さん…」
千春が東京にいた頃と、その男は何一つ変わっていなかった。人懐こそうな笑顔、体格のいい身体、低くて甘い、色気のある声。その男、樋山勇司は、千春が二年間付き合っていた元、恋人だ。千春は、勇司の全てが大好きだった。明るく、快活な性格も、ジムで鍛えている逞しい身体も、優しい笑顔も、そして夜、ベッドの上で千春を抱きながら、耳元で甘い言葉を囁くその声も。
「あら。何、勇司。お友達?」
勇司の後ろから少し遅れて、スタイルのいい、綺麗な女性が顔を出す。さらさらとした真っすぐな長い髪を片方だけ耳にかけていて、見えている耳には、小さな赤いピアスをしていた。
「あぁ、昔の知り合い。千春、オレの婚約者だ」
「百合です。よろしく」
「どうも…」
昔の知り合い…か。そりゃそうだよね。
婚約したばかりの相手に、元恋人が同性…なんて事がバレたら、一大事だろう。婚約は白紙になり兼ねないし、この先も変な噂がたってしまう可能性もある。それはわかってはいるが、やはり寂しいものではあった。
「しかし驚いたな。千春が店辞めてから、あの店に行っても、本当に寂しくてさ。何も言わないで辞めちゃって、どこ行ったのかと思ってたんだ」
「お…覚えてて、くれて…ありがとうございます」
「何言ってんだよ、当たり前だろ。千春の事は、忘れるわけないよ」
腹が立つほど優しい、深みのある声は、やはり変わっていない。その声が確かに好きだった事を、千春の身体中が覚えていた。
