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愛してるって言って!

第3章 【合縁奇縁】

耳元に響く優しい声に、思わず膝が崩れそうになる。だが、千春は必死でその誘惑を振り払った。
違う…。
「勇司さん、離して…」
「離さない。お前だって、本当はオレを忘れられなかったんじゃないのか?」
違う…!僕が欲しかったのは、違うんだ!
「思い出せよ、千春」
そう言うと、勇司は千春の唇を無理矢理に奪った。
「…嫌だ、やめっ…んんっ!」
勇司に抑え込まれた千春の細い身体は、車に押し付けられて全く身動きが取れなかった。
そういうのじゃない!
そう心で叫んでも、口を勇司に塞がれ、千春は何も言えなかった。それでも必死に抵抗し、やっとの思いで顔を背ける。
「お願い…!やめてよ…」
その時。誰かが足早に歩いてくる音がして、千春は音の方に振り返った。こちらに向かって歩いてくる、背の高い人影。千春はそれが誰かわかると、安堵のあまり、泣きそうになった。
「嶋…さん…」
「お客様」
「なんだ?お前は」
勇司はやって来た嶋を睨んだ。邪魔をするなと言わんばかりの鋭い目つきは、千春の知っている勇司とはまるで別人だった。
「ここは美術館の前です。申し訳ありませんが、そういう事は然るべき場所でお願い致します」
「ん?君は、さっきの…。それは済まなかった。可愛い恋人に久しぶりに会ったものでつい、な」
勇司は、微笑みを浮かべながら、車の助手席を開ける。
「さ、もう行こう。千春」
千春の腕を掴む勇司の手に、グッと力が入った。
まずい!
千春がそう思った時。
「お待ちください」
嶋の冷静な声に、勇司はまた苛立ち始めた。
「まだ何か?」
「彼の事は置いて行って頂けますか?」
「嶋さん…」
「彼はここの従業員であり、私の連れですので」
「なんだと?」
勇司の目が、再びジロッと嶋を睨みつける。
「…聞こえませんでしたか」
その時、嶋の声色が確かに変わった。
「そいつはオレのだ。警察に突き出されたくなきゃ、その手を離せ」

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