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愛してるって言って!

第3章 【合縁奇縁】

「はい…」
千春はただ、返事をする事しかできなかった。確かに、勇司がそういう事をするつもりで誘っていた事くらい、千春にもわかっていた。けれど、あそこまで無理矢理に迫られるとは、正直思ってもいなかった。
「それから、あの手の奴はやめとけ。典型的な浮気野郎だ」
「話…聞いてたんですか?」
「勘だ。勘。あんなのは見るからにろくな奴じゃない」
嶋は、そう言ってからじっと千春を見つめ、またため息をついた。
「悪かったな、勝手に嘘ついて」
「え…?」
「あいつの事、まだ好きなんだろ?」
「好きっていうより…忘れられないって感じで…。バカだって、思いますよね」
「まあな」
嶋は片手で頬杖をついて、呆れた様な顔をしている。
「自分でも思います。あの人と僕が見てるものは同じじゃない。一緒にいても、自分が空しくなるだけだって…」
「わかってるなら大丈夫だ。後はホイホイ着いて行かない事だな。まぁ、当分は彼氏のフリでもしといてやるよ。さっさと新しい男見つけろ。そうすりゃそのうち、あいつも諦める。お前には悪いが、ああいう奴はな、きっと他にも手を出してるはずだぞ」
嶋の言った事は多分、正解だった。付き合っている時も、もしかしたらそうなのかもしれない、と思った事もある。それでも、きっと最後は、自分の所に戻って来てくれる、と千春は信じていた。だがそれは、冷静になって考えてみれば、千春が欲しかった勇司との関係とは、確実にずれたものだった。
「なんだか、再会して僕も諦めがついたっていうか…目が覚めました」
あれほど、勇司を忘れられず、寂しい事に耐えられず、東京から逃げて来たというのに。千春の心の中では今、まるでその魔法が解けたように、勇司への想いは消えていた。
「きっと嶋さんのおかげです。ありがとうございます」
「惚れるなよ」
千春は、嶋の言葉に一瞬驚いてから、ぷっと噴き出して笑った。

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