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愛してるって言って!

第3章 【合縁奇縁】

『怪しい関係』

那須の町は雪が降ったり、止んだりを繰り返しながら、真っ白な雪景色へと変わっていく。雪は、空気中にある、あらゆる音を吸い込んで、ただでさえ静かなこの町の朝を、一層しんと静まり返らせていた。
そんな十二月の半ば。忍は考え込んでいた。来る静矢の誕生日をどう祝おうか、何を贈ったらいいのか、考えても考えても浮かばないのだ。しかも、大風邪をひいたせいで、プレゼントのリサーチも含めた買い物に静矢を付き合わせる作戦は、未だ未遂行だった。
「まだ考えてるんですか?」
「そう。だって全然決まんないんだもん」
グラスを拭きながら、忍はため息をつく。思えば今まで、静矢の誕生日を祝った事はあっても、プレゼントをあげた事は一度もなかった。学生の頃は飲み代や、食事代を奢ったりして済ませていたし、静矢が茜と付き合ってからは、ろくに会っていなかった時期もあったので、祝ったりする事もなかった。だが、二人で暮らし始めた今年の誕生日は、そんなイベントをしてみるのもいいかな、と思っている。もちろん、そこに下心がないわけではないが。
忍は、このところ、静矢への期待値が信じられないくらい高まっている事に、自分でも気付いていた。
静矢さんに、抱きしめられる事があるなんて、正直…思ってもみなかった…。
その感覚を思い出せば、また胸が高鳴る。今まで静矢に抱きしめられた事など一度だってない。ついでに言えば、髪を撫でられた事もない。一緒に暮らしている、というだけで、こんなにも距離は縮まるものだろうか。

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