テキストサイズ

愛してるって言って!

第3章 【合縁奇縁】

仕事を終えた忍は、静矢を店で待っていた。マスターからはさっき電話があり、銀行での用事が今終わったので、今日はこのまま帰るとの事だった。
「千春、おれ最後鍵かけるから、帰っても大丈夫だよ」
「あ、でも…嶋さんが、迎えに来てくれるみたいなんで…ここで待ちます」
「そっか」
彼氏みたい…。
そう、忍は思った。二人は割とお似合いな気もする。本当の事を言えば、忍はこのところ、嶋と千春の距離感が近くなっていた事にほんの少し寂しい気もしていた。まるでうるさくて過干渉な兄に恋人ができて、構われなくなった弟のような気分だ。
まぁ、そんな事絶対言えないけど。
そんな事を言おうものなら、嶋の雄のスイッチを忍自ら押してしまう事になる。そうなったら最後、何をされるかわかったもんじゃない。
「忍さん」
そんな事を考えていた時、千春が突然忍を呼んだ。千春は、カウンター席に座り、ケータイを見ている。そこは、いつも嶋が座っている席だった。
「何?」
「忍さんって、嶋さんにだけいつも当たりが強いじゃないですか。あれって、なんでですか?」
なんで?そりゃもちろん、口説いてくるのを拒否する為だよ。
なんて事は千春にはきっと、言わない方がいいのだろう。
「嶋さんとまともに話すると疲れるから」
「疲れる?」
「いつもよくわかんない話ばっかりして、難しい話かと思ったら、くだらない話だったりするし、他人の話す事全然聞いてないし、あー言えばこー言うし…」
忍はそこまで言ってから口を噤んだ。千春は、忍の話を聞きながら、切なそうに微笑んでいた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ