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愛してるって言って!

第3章 【合縁奇縁】

そんな気はしたけど、やっぱりそうだ。
「千春は…好きなんだね」
忍がそう言うと、千春はようやくケータイから目を逸らし、忍を見た。
「僕も忍さんみたいになれたらな。そしたら絶対、もっと視界に入れるのに…」
その時、確かに千春は笑顔だったのに、その顔はひどく悲しく見えた。
忍は何も言えなかった。嶋の気持ちを知っている以上、頑張れとも、諦めろとも言えず、ただ千春に申し訳ない気持ちになった。きっと勘のいい千春は、それにすら気付いているのだろう。
「忍、お待たせ!」
そこへ静矢が息を切らして店へ入って来た。忍は思わずホッとしてしまった。
「蒔田さん、お疲れ様です」
「今日は一段と冷え込んでるよ。忍、帰ろう。千春も、もう帰るなら送ってくけど?」
「大丈夫です、嶋さんが来てくれる事になってますから」
「そっか、わかった。嶋によろしくな」
「はい、お疲れさまでした!」
千春は店を出る時、振り返った忍に頑張れ、と言わんばかりにガッツポーズをした。

車に乗ると、静矢はすぐにエンジンをかける。車の中は外とほぼ変わらないくらいに冷えていた。
「寒いだろ?今日はわりと日の当たる場所に停めたんだけど、あんまり効果なかったかな。そうだ、夕飯どうする?何か食べに…」
「静矢さん」
「ん?」
「あのさ、今日おれ、行きたい所があるんだけど」
千春と話した事で、忍はつい、今日のメインイベントを忘れそうになっていた。突然思い出したように胸がドキドキ鳴って、煩わしいったらありゃしない。
あーもう!別に普通!義兄の誕生日を祝う!それだけなんだから!
「行きたい所って?これから?」
「うん。静矢さん、今日誕生日でしょ?」
静矢は一瞬ハッと目を見開いた。

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