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愛してるって言って!

第3章 【合縁奇縁】

『愛欲の夜』

帰りの車の中で、忍は爆睡していた。
たった十五分足らずで爆睡か…。
静矢は苛立っていた。正直、そんな感情がまだ自分に残っていたとは驚きだ。茜が死んでからは、自分でも悟りを開いたかと思うほど、感情を失くしていた静矢だったが、今は、何かに当たりたくて仕方ないくらい、とにかく頭に来ていた。
何だったんだ、あれは…。
それは、酔っぱらった忍を、嶋が介抱しているようにも見えなくはなかった。だが、恐らく違う。そんな事がわからない程、静矢はバカじゃない。
車を家の前に着けると、静矢は忍をゆすって起こした。
「忍、着いたぞ」
「ん…」
顔を歪めて、忍は目を擦る。
抱き合ってた…よな?
二人は実は恋人同士なのだろうか、と静矢は想像してみる。だが、周囲に内緒で付き合っていると考えると、二人の時間は相当少ないはずだし、特にここ最近嶋は、どちらかといえば忍よりも千春と一緒にいる事の方が多かった。やはり忍と嶋が恋人とは考えにくい。だとしたら、どちらか一方が好意を持っている、という事だろうか。
どっちが…?
例えば、嶋を取り合って三角関係になっているとか、嶋が二人を同時に口説いているとかあらゆる可能性を頭で考えながら、静矢は忍を見つめた。そういえば、忍と恋愛の話をした事は、かつて一度もない。いつもつるんでいた学生時代も、忍に彼女がいたなんて話は聞いた事はなかった。忍のルックスと性格なら、作ろうと思えばそれは簡単な事の様な気もする。だがそれをしなかった事には、何か理由があるのだろうか。
「ごめん、疲れちゃった。先に寝るね」
「あぁ、おやすみ」
忍と嶋の事を延々と考え続けてしまう静矢をよそに、忍は眠そうに二階へ上がって行く。
忍がいつも嶋に辛く当たったり、悪態をついたりするのが、実は愛情の裏返しなのだとしたら。そういう事を一切されない静矢は、忍にとっては当たり前だが、ただ義兄、というだけの存在なのだろう。
静矢の誕生日を祝う為に、店を予約しておいてくれた事がわかった時、静矢は忍に義弟としてではない何かを、期待してしまっていた。けれどその期待は、今、醜い嫉妬心となって、静矢の胸をざわつかせる。
忍の気持ちがどこにあるのか、静矢は身勝手にでも、その答えを見つけ出そうとしていた。

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