
愛してるって言って!
第1章 【酒と男と双子の弟】
「おかえり。また忍んとこか?」
美術館へ戻ると、この館で学芸員として勤務している、嶋が静矢に声をかけた。
「あぁ。帰りにまた寄る」
「じゃあオレも、今日の帰り行こうかな」
「何しに?」
「一杯だけ飲みに」
「好きにしろ」
静矢は今、家から車で二十分ほどの場所にある、挙式も手掛けている美術館に再就職している。美術館はまだできたばかりで、新しく、綺麗で、静かで、落ち着きのある空間だった。庭が広く、その中には小さなチャペルがあり、何よりも、展示品のほとんどが日本画という事に、静矢が不思議な縁を感じた事は、言うまでもなかった。
ちょうど同じ頃、美術館へ中途採用でやって来た嶋諒太郎は、長身で細身の、見た目はいかにも芸術の似合う男だった。この嶋という男は、さらさらとした栗色の髪がよく似合う端正な顔つきでいて、黙っていれば確かに二枚目なのに、その外見に全く似つかわしくない性格をしていた。飄々として、妙に調子がよく、自由奔放で全くつかみどころがない。だが、根は真面目な様で、その仕事ぶりは実に信頼できるものだった。ただし、酒を飲むと、少々羽目を外しすぎてしまう事がある様で、忍に初めて会わせた時には、調子に乗って随分と深酒をしてしまい、忍に絡んで散々迷惑をかけた事もあった。
それがなきゃ、こいつはもう少しモテるだろうにな。
静矢はよく思う。だが、それからも嶋は懲りる事もなく、仕事帰りには、忍の働くカフェに通って、習慣の様に酒を飲んでいた。
昔は静矢も酒が好きだった。あまり潰れた記憶もないし、恐らく強い方だとは思う。だが、茜が死んでしまってから、酒を飲む事を煙草と一緒にやめた。なぜかと聞かれると自分でもよくわからなかったが、つまらなくなったから、というのが一番の理由かもしれない。
美術館へ戻ると、この館で学芸員として勤務している、嶋が静矢に声をかけた。
「あぁ。帰りにまた寄る」
「じゃあオレも、今日の帰り行こうかな」
「何しに?」
「一杯だけ飲みに」
「好きにしろ」
静矢は今、家から車で二十分ほどの場所にある、挙式も手掛けている美術館に再就職している。美術館はまだできたばかりで、新しく、綺麗で、静かで、落ち着きのある空間だった。庭が広く、その中には小さなチャペルがあり、何よりも、展示品のほとんどが日本画という事に、静矢が不思議な縁を感じた事は、言うまでもなかった。
ちょうど同じ頃、美術館へ中途採用でやって来た嶋諒太郎は、長身で細身の、見た目はいかにも芸術の似合う男だった。この嶋という男は、さらさらとした栗色の髪がよく似合う端正な顔つきでいて、黙っていれば確かに二枚目なのに、その外見に全く似つかわしくない性格をしていた。飄々として、妙に調子がよく、自由奔放で全くつかみどころがない。だが、根は真面目な様で、その仕事ぶりは実に信頼できるものだった。ただし、酒を飲むと、少々羽目を外しすぎてしまう事がある様で、忍に初めて会わせた時には、調子に乗って随分と深酒をしてしまい、忍に絡んで散々迷惑をかけた事もあった。
それがなきゃ、こいつはもう少しモテるだろうにな。
静矢はよく思う。だが、それからも嶋は懲りる事もなく、仕事帰りには、忍の働くカフェに通って、習慣の様に酒を飲んでいた。
昔は静矢も酒が好きだった。あまり潰れた記憶もないし、恐らく強い方だとは思う。だが、茜が死んでしまってから、酒を飲む事を煙草と一緒にやめた。なぜかと聞かれると自分でもよくわからなかったが、つまらなくなったから、というのが一番の理由かもしれない。
