
貴方がいつもそこに居てくれたから…
第1章 壱
お金を貯めて、何処かアイツに見つからずに済む場所へ引っ越して。
ずっと苦労してきた母さんを、今度は僕が支えていくんだ。
そう、思ってた。
…なのに。
卒業式を終えて、ささやかながらお祝いしてくれた母さん。
アルバイトをしていた僕は、『こんな日くらい休んだら?』って言われたけど、卒業式の後もバイトに出掛けていた。
深夜の方が時給が高いから、僅かな時間で母さんがお祝いしてくれて。
翌朝、ボロボロのアパートに帰った僕。
目の前に広がる光景に、何が起きてるのかまるで分からず立ち尽くす。
茶の間は物が散乱し、ぐちゃぐちゃで。
強盗でも入ったかの様。
だけど…
すぐに気付いたのは、母さんの傍に居た人間が振り返ったから。
父、さん…
見つかったんだ。
二人で逃げてきた僕たちを見つけ出したらしい父さんが、ゆっくり振り返ったんだ。
『和!…逃げなさい!…早く!』
血だらけの、母さんが力を振り絞り叫んだ。
どうなってるのかさっぱり分からない。
そこら中に母さんのと思われる血が付いてる。
回転しない頭で、それでも僕はこのままじゃ僕も殺られると思った。
逃げなきゃ。
でも待って。
母さんは?
そう思ったら当然僕の足は動く事を止める。
だけど、振り向いた父さんが僕に向かってくる姿を視界に捉えた瞬間、僕の足は勝手に動き出してた。
ボロアパートを飛び出した、僕。
背後に聞こえた…
母さんの悲鳴に似た、叫び…
振り払う様に、僕は走った。
無我夢中で走って、辿り着いたのは見知らぬ公園。
息も出来ない程走った僕の喉は、聞いた事もない音を鳴らす。
少しして聞こえてきた、サイレン。
母さん…
それを聞いて我に返った僕は、来た道を引き返した。
ゆっくりだった足取りが、アパートに近くなるにつれ早まり、涙で視界が遮られながらも何とか戻って来た僕の目の前に、パトカー数台と救急車。
『…母さん』
呟き、玄関へ向かった。
警官に取り押さえられながらも叫んだけど、一向に母さんの姿は見えない。
『母さん!!…母さん!!!!』
救急隊員の手で運び出された、担架。
シートの被されたそれは…
『…母…さん?』
血だらけの手が、だらりとそこからぶら下がり…
僕は…
母さんを…
見殺しに、したんだ…
