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貴方がいつもそこに居てくれたから…

第2章 弐


「あの…楽しい話ではないんですけど…」

前置きをした僕に、大野さんはビールを追加してくれて。
ついでの様にポンと頭を撫でた。

「相葉さんには話したんですけど…僕には両親は居ません。正確には母親が居なくて、父親は…居るのは居るんですけど…僕は彼を父とは思っていないので」

あの日。
僕が逃げた日、母さんは父さんに殺された。

夜にアパートへやって来たらしい父さんは、逃げた母さんを責め続けた挙句、犯した。
自分の気の済むまで母さんを強姦した父さんは、相も変わらずお金をせびり。
断り続けた母さんに逆上し、殴り続け蹴り続けたと聞いた。

あの日すぐに捕まった父さん。

事情聴取は当然僕にも行われた。

泣きながら話した事を今でも覚えてる。
そのまま刑務所行きになった彼は、数年前再び僕の前に現れた。

「僕はずっと知らん顔して逃げ回っていました。…しつこかった彼は、定期的に顔を見せては僕に謝罪を繰り返して…結局、僕に会いに来る理由なんて知れてるんです」

大野「………金、か」

そう。
せびりに来るだけなら、断りも出来る。
けど…

「あの人は…多額な借金を抱えているんです」

相葉「そんなの!和くんが払う理由なんてないじゃんか!」

「そうです。だけど…彼らには…そんな事通用しない。息子だろ?と…親父のケツは拭ってやるのが息子の役目だろ?って、言われました」

もう、息子でもなければ父親だなんて思ってもいないとはっきり告げた僕に、彼らは僕の深い深い闇を引き摺り出したんだ。

『へぇ♪そっかそっか。そうだよなぁ?母親を見殺しにしたんだもんなぁ♪そりゃ息子でもなけりゃ親子でもねぇか(笑)』

嘲笑う彼らを前に、僕は全身を震わせる事しか出来なかった。

今ここで、僕を何が何でも引き摺って。
身体で借金返す方法をとっても構わないと言われた。

その時の彼らの表情は、恐ろしい程に真剣で。

せっかく、大切な時間が出来た僕には成す術なんか…なかった。

「……僕には、頷くしかなかったんです。連れて行かれる訳にいかないから……今のこの時間さえ…僕には…生まれて初めて大切だと、思えるから…」

失いたくないと思う。
相葉さんに出会った事で、ここに居る二人に出会い。
潤くんにその彼女さん。
そんな貴方たちとのこの時間は、今の僕には僅かながらでも幸せなんだ。

大野「…返済の為の?」

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