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貴方がいつもそこに居てくれたから…

第1章 壱


僕には、両親が居ない。

もっと言うと身寄りがないんだ。

……逃げて来たからね。




高校を卒業した翌日だった。

僕がバイトから帰って来ると、ボロアパートの茶の間は凄まじい光景だった。

母『和!…逃げなさい!…早く!』

そう叫ぶのは僕の母親で。
何が何だかさっぱり分からなかった。

それでも、目の前に広がる光景にこのままじゃ僕も殺されると思った。
逃げよう。
だけど母さんは?
そう思って躊躇った瞬間、男が僕に向かって来る姿を見て足が勝手に動いてた。


ボロアパートを飛び出した僕。

走って走って…
走り疲れた僕が辿り着いたのは見知らぬ公園。

息が出来ないくらい苦しくて、喉の奥が聞いた事もない音を鳴らしてた。



遠くの方から聞こえてくる、サイレン。

母さん…

僕は来た道を戻りながらも、足が震えて。
だけど母さんを見捨ててしまった…

僕は一生、後悔と懺悔を胸に生きて行く事になった。




「……いらっしゃいませ」

コンビニでアルバイトする僕は、レジに立つ事はない。
店長に何度も何度も頭を下げて、何とか雇ってもらえたこのコンビニがないと、生活出来ないんだ。

もちろん、僕のアルバイトはここだけじゃない。

昼間はスーパーの品出し。
夕方からは工事現場の交通整理。
深夜はコンビニ。

3つのバイトを掛け持ちしてる。


深夜帯はあんまりお客さんが来ないから、都心から離れたこの店は平和だ。

いつもの様に品出しをする僕の背後に人の気配を感じて商品が入った箱を手に、バックヤードに戻ろうと立ち上がった。

『すいません』と声を掛けられ、瞬間的にヤバいと思ったけどもう遅い。

僕は人と関わりたくないから、レジに立たないのに。
俯きながら『…はい』と返事をしたら、事の外小さな声。

相葉『あの。絆創膏って、どこですか?』

そう聞いてきた客。

相葉雅紀。

それが彼との出会いだった。



何故かは分からないけど、彼は指を血だらけにして立ってた。

それも、滴りそうな勢い。

慌ててポケットのティッシュを差し出して、絆創膏の棚に案内する。
彼はとてつもなく嬉しそうに笑って僕の差し出したティッシュで指を抑え絆創膏と、ウエットティッシュをレジで精算。

一緒に買ったウエットティッシュで血を拭いながら『ありがとう♪助かったよ♪』と、眩しいくらいの笑顔で。

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