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貴方がいつもそこに居てくれたから…

第2章 弐


連れられたのは古いビル。

築年数を予想する事も難しい程のそこは、確実に20年なんてもんじゃない。

櫻井「相変わらず古いなぁ(笑)」

そう言って見上げた櫻井さん。
苦笑いする僕を連れて、中へと足を踏み入れる。

当然そこに自動ドアなんかないし、エレベーターもない。

また、櫻井さんは振り返り三階だと申し訳なさそうに教えられた。
階段を上がる櫻井さんは二階を過ぎた頃、『やべぇ…運動しよ…』って呟いてる。
このご時世、エレベーターのないビルなんてそうそうないから、仕方ないと言えば仕方ない。

薄暗い階段を上がり三階に着くと、木製のドアを見つけて。
そのドアの磨りガラスには【成瀬法律事務所】と、かなり掠れた文字。

ノックした櫻井さんは返事も聞かずドアノブを回した。

成瀬「………はい」

櫻井「先日連絡した櫻井です。…急ですいません」

成瀬「…いえ。………どうぞ」

ドアの向こう、事務所の中にはとてつもなく綺麗な顔立ちをした男性が居た。

何となく…
大野さんに、似てる?

そう思ったけど、物凄く影のありそうなその人は右手を差し僕たちをソファへと促した。

櫻井「お話した、二宮さんです」

成瀬「…初めまして。…成瀬と申します」

「初めまして。…二宮、です」

成瀬「………軽くお話は伺いました。二宮さんの意思をお伺いしたいのですが」

「……意思、ですか?」

成瀬「…はい。私はまだ櫻井の話しか聞いてません。なので、二宮さんからのご依頼と言う事にはまだならないので。……どうですか?」

「あ、の………僕は……自分の、払うべき借金だと、思えないまま何年も払い続けて来ました。……血の繋がった父親とは言え、僕には…」

成瀬「…そうですね」

「………助けて……いただけ、ますか?」

成瀬「………貴方が、それを望むのであれば。私はどんな事をしても、二宮さんをお助けします」

力強い言葉。
表情は決して豊かではない、成瀬さん。
寧ろ、この人に感情があるんだろうかと思ってしまう程、成瀬さんは無表情に近く人間味を感じられなかった。

それでも。

その力強い言葉を向けてくれた彼に、僕は少しの期待を抱く。

「…よろしく、お願いします」

深く頭を下げた僕に、右手を差し出した。
顔を上げると、成瀬さんの柔らかくも優し気な微笑み。
初めて見るそれはとてつもなく綺麗だった。

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