
貴方がいつもそこに居てくれたから…
第7章 五
僕は傍に居たパートのおばちゃんに少しだけ離れる事を伝えて、見知らぬ男性の後を付いていく。
スーパーの外に出て、隅の人気のない場所まで来ると、男性がくるりと振り向き僕をジッと見つめて来た。
「……あのぉ…何か?」
怖くて仕方ない。
だから、いつでも電話出来る様に携帯の画面に大野さんの番号を表示して。
相葉さんは、駄目。
旅行中だから。
会社の方たち全員に迷惑を掛ける訳にいかない。
『実は………私、菊地と申しまして…』
菊地、さん…
…知らない。
僕の知ってる人の中には菊地さんなんて名字の人が居ない。
「ごめんなさい、僕…会った事、ありますか?」
『いえ、私自身は初めてお会いします。…妹があなたをお見掛けしまして』
「……妹さん…ですか」
『はい。妹が何度かここへ買い物に来ていて。…あなたをお見掛けして一目惚れしたと言うんです』
一目惚れって!
嘘、でしょ?
僕なんかに?
驚き過ぎて声が出なかった。
どうしていいのか分かんない。
返す言葉も見つからず、口を開けたまま固まる僕。
『すいません突然。妹がどうしてもあなたとお話がしたいと言うんです』
物凄く申し訳なさそうな顔をされたけど、やっぱり返す言葉が見つからず黙り込んでしまう。
男性は妹さんの事を恥ずかしそうに話してくれた。
物凄く明るくて人見知りなんかしないのに、どうしても僕に声を掛ける事が出来ないって相談されたらしいこの男性は、妹さんの事をとても可愛がって来たんだとか。
歳が一回り近く違うらしい。
これまで妹さんに相談された事はあんまりないそうで、こんな事が初めてでどうにかしてやりたいとこのスーパーへ来たとも話してくれた。
『本当にすいません。気持ち悪いと思われるかもしれませんけど…妹の事になるとどうしても放っておけなくて…』
「そう、だったんですか」
『我が儘ではあるんですけど、やっぱり可愛い妹なんです。…ご無理を承知で、どうにか会ってお話だけでもと…』
「……えっ…とぉ……お話を聞くのは構いませんが……僕、には…お付き合いしてる人が居るので…」
『そうですよね?…そうだと思いました。いいんです、それでも。あいつの話を聞いて断っていただいても構いません。聞くだけ聞いてやってもらえますか?』
「…………じゃあ……仕事中なので…終わってからなら…」
断るに断れなくなった。
