
貴方がいつもそこに居てくれたから…
第9章 六
引っ越しをして一週間。
僕はバイトの帰りも後を付けられない様に細心の注意を払っていた。
まさか大野さんのお店までバレてるなんて思ってもいなかった。
大野「いらっしゃい」
「こんばんわ。…相葉さんは櫻井さんと真っ直ぐ来るって言ってましたよ?」
大野「うん、聞いてる」
今日は久し振りに松本さんが皆で飲もうって言って来たらしくて。
相葉さんからのメールをお昼に確認した僕は、バイトを終えて真っ直ぐにここへ来た。
どうやら僕が一番乗りだった様だ。
大野さんはカウンター奥のキッチンで料理をしてる。
僕が『何か手伝いましょうか?』って声を掛けたら唐揚げ用にタレを作ってと頼まれた。
カウンターの中に入る事を躊躇った僕に大野さんが笑う。
大野「部屋まで来た事あんだから、今更だろ(笑)」
…って。
そうだけど…
櫻井さんがいつもカウンターに座るから、僕なんか入っちゃ悪いって思うでしょ?…普通。
カウンターの中でお手伝いしてた時。
インターホンが鳴って。
大野さんがきっと櫻井さんたちだと、手が汚れてるから僕に出てくれと、頼まれた。
確認もせずに、開けてしまった僕が悪いんだ。
『……やぁ♪二宮くん♪…探したよ?マンションも引っ越して居ないんだもんなぁ(笑)』
咄嗟にドアを閉めようとしても、もう遅かった。
僕は後退りながらもお店に入れる訳にいかないと、そこに留まったけど…
『どうして逃げるんだよ♪…二宮くん♪』
「か、帰れ!」
何とか振り絞った僕の叫びを聞いた大野さんが、駆け寄ってきてくれた。
大野「誰だお前」
聞いた事もない大野さんの低い声。
『お前こそ誰だよ。俺の二宮くんだぞ』と、彼は宣う。
大野さんに腕を引かれ背中に隠された。
震えが止まらない。
怖い。
…けど、大野さんも危険なのには変わりない。
それでも怖さのあまり動けなかった。
大野「………警察、呼ぶか?」
『呼ばれて困るの、君だろ?……営業許可、取ってねぇじゃん(笑)…ここ』
そう嘲笑う彼は、最早人とは思えない表情。
怖い…
思わず大野さんの背中の服を握り締めてしまう。
僕は何度も何度もごめんなさいと繰り返した。
許してと…
もう放っておいてと。
何度も懇願する。
だけど正気の沙汰を失った彼に、通用するはずなんか、ない。
ただただ、嘲笑い近付いて来た。
