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I'm In Love With The HERO

第3章 笑顔のゲンキ【銀黄】





映士は正直、焦った。まさか泣かれるとは思わなかった。声を上げて泣かれるよりはマシか。
真墨と出会う以前の記憶がなく、過去を知らないという恐怖と戦いながら日夜ネガティブ達と戦っている菜月。
嫌なことなどないわけがない。
やっぱり人を慰めるのは柄じゃない。と映士は小さく嘲笑した。
映士はため息をつくと菜月の隣の椅子にドカリと座り、野菜を取り出した。

「いるか?」

菜月は涙を流しながらも野菜を手に取った。

「俺様は蒼太じゃないからな。上手いこたぁ言えねぇ」

菜月は何も答えなかったが野菜に口をつけた。
泣きながら野菜を貪る菜月に映士は吹き出した。

「食べるのかよ」

尚も野菜を食べ続ける菜月に食欲はあるんだな、と映士は少しほっとする。

「うまいだろ?」

映士の言葉にこくりと頷き、もの凄い勢いで菜月は野菜を食べ終えた。映士はまた吹き出す。

「お前まさか腹が減ってただけじゃねぇよな?」

その言葉に少しムッとしたのか菜月は頬を膨らませ首を振った。

「何だよ、今日はしゃべんないのか?」

別にいいけどよ、と映士は付け足す。
無理には聞き出したくはなかった。話したくないならそれでいい。本人がそれでいいなら俺様は無理強いしない。
お腹に食べ物が入り、散々泣いて疲れたのかうっつらうっつらと船を漕ぎ始めた菜月。映士は笑う。

「おいおい、赤ちゃんかよ」

今日の映士はよく笑い、よく喋る。まるで菜月の代わりと言わんばかりに。
映士は自分の肩を叩いた。

「ほら、頭乗っけてもいいぜ。今日限定だけどな。」

映士の言葉を聞いているのかいないのか、気を失うかのように菜月は映士に頭を傾けながら眠った。

「次、目が覚めたときはいつもの菜月に戻れよ。それじゃなきゃあ俺様の調子が狂うぜ」



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