後輩くんの挑戦状 ~僕に惚れてもらいます~
第8章 淫らなアフターワーク
ホッとしたせいで力が抜ける。
「…っ…君だったのね」
「誰だと思ったんですか」
不審人物なのではと危惧したそれは、事務所に戻ってきた葉川くんだった。
「カッターなんて持って危ないですね」
「これは…違うわ。模型を作っていただけよ」
ネクタイ無しの白いワイシャツに、リネン素材のグレージャケットを着ている今の葉川くんの服装は、昼間と同じ。
帰宅させたのは二時間以上前なのに…まだこの辺りにいたのね。
いったい何しに来たのかしら。
「君こそこんな時間にどうしたの? 忘れ物?」
「たまたまこの前を通ったら事務所の電気が付いていたので。…まだ仕事が残っているなら、お手伝いをと」
「たまたま、って…。ずいぶん前に帰ったでしょう。君の家だってこの辺りじゃないし、通りかかるものかしらね」
「大学時代の知り合いから食事に誘われていたんですよ。この近くの店でしたから、帰りがけに寄っただけです」
「飲み帰りってこと?」
「僕は車なので、酒は飲んでないですが」
さっきの緊張のせいもあってか
質問を繰り返す私は、尋問するような棘のある聞き方しかできない。
葉川くんはと言うとやっぱり落ち着いていて、律儀にひとつずつ答えていた。