後輩くんの挑戦状 ~僕に惚れてもらいます~
第9章 詫びのしるし
今から行く打ち合わせとは、私が担当している戸建住宅の施主との話し合い。
ここの設計は前々から葉川くんにも手伝ってもらっているのだから、同席したいという彼の要望を断るわけにはいかない。
…でも私は、彼に付いてきてほしくはない。
だから返事をしなかった。
けれど葉川くんには、こんな小さな抵抗なんて意味ないらしい。
事務所の下の駐車場。そこに停めた車のドアに手を伸ばしたら、葉川くんが間に割って入ってきた。
「僕が運転しますよ」
「自分でするわよ」
伸ばした手で彼を横に押す。
素直に道を開けた彼の前を通りすぎ、私は運転席に乗り込んだ。
エンジンをかけて
冷房をつけてから、蒸し暑い車内の空気を逃がすために窓を開ける。
発車の準備は整ったのだが
「ハァ、もう……っ」
車の前には微笑んだまま動かない葉川くんがいた。
「…っ…そこにいても邪魔でしょう。事務所に戻るか、乗るかしなさい」
「はい、そうします」
「…乗るのよねやっぱり」
痺れを切らして声をかければ、勝者の笑顔で彼は助手席に乗ってくる。
この場合の私は敗者なわけだけれど、不満が顔にでないように無表情をつらぬいた。